AZU−BRACE ep1:小さき村の孤児院

グンパジ王国・・・。首都ウヨキウトを中心とする軍事国家・・・。
4年前・・・、首都になるべく立ち上がった街や村が戦争を起こした・・・。
その被害でいくつかの村は滅ぼされ、ウヨキウトの将軍、ゴトゥーザが国王として君臨した。
そんな中、村を滅ぼされ1人あてもなく旅をしている女剣士がいた。

これは、その剣士・サカキの旅を巡るエピソードである・・・。

1

「次の村まであと半日もあれば着く・・・か」
 漆黒の長い髪をストレートに伸ばし風に靡かせながら長身の女剣士が、地図を見ながら旅をしている。
彼女の名はサカキ。雪国ドイカホ村出身の剣士で、4年前廃村させられた後、こうして旅を続けている。
「次の村はマタイサ村・・・か・・・む?」
サカキは、山賊に襲われている小さな少女を発見した。
「へっへっへっ、嬢ちゃんよぅ。ちょっと来いや!」
「や、やめてください!!」
見るからに性質の悪そうな男に絡まれてる少女は、ツインテールの小さな女の子だった・・・。
「いいから来いや!てめぇんとこの孤児院にいくらタイガー様が金出してやってると思ってるんだ?あぁ?」
男はそう言い、無理矢理少女を連れ去ろうとし、少女は華奢な身体ながらも必死に抵抗していた。
「やめろ!」
サカキは男の首元に剣を当てた。
「ひぃっ!な、なんだ!?てめぇは!!」
「こんな子供に酷い事をして・・・恥を知れ!」
男は1歩引き、腰に隠した斧を取り出した。
「て、てめぇ!!女ごときが俺に逆らおうなんて、いい度胸してるじゃねぇか!!」
斧を向けられても、サカキは冷静さを失う事なく、剣を構えた。
「ぁんだ?やる気か?この俺に勝てるとでも思ってるのか?あぁ?」
「・・・思っている・・・」
サカキはボソっと口にした言葉に男はついにキレた。
「ざ・・・ざけんじゃねぇぞ!!このアマぁぁぁあああっ!!」
男はサカキに向かって思い切り斧を振りかり、飛び掛った。
その瞬間、サカキ一瞬剣を抜いたかどうかも解らないくらいの微妙な動きを見せ、男の動きが止まった。
「な・・・あ・・・ぁんだ?何しやがった・・・って、ぐぎゃぁぁっ!!」
急に男の右肩から血が噴出した。
「ぐぉっ・・・て、てめぇぇっ!!な、何しやがったぁぁっ!?!」
サカキは静かに男の目を睨みつけた。
「『居合い』・・・」
「い、居合いだぁ!?じょ、冗談じゃねぇぞ!!くそっ!!」
男は右の肩をつらそうに押さえつけてつつ、力の差を思い知らされた。
「今すぐ退け。・・・さもないと、次は左腕も使えなくなるぞ・・・」
サカキはまっすぐ男の鼻の先に剣の先を向けた。
「ち、ちくしょぉぉぉおおおっ!!覚えてやがれぇぇぇえええええっ!!」
男は悔しそうな顔をして、走って去ってしまった。
 サカキは男が去るのを見ると、剣を腰の鞘に戻し、落ち着かせ、少女に近寄った。
「大丈夫?怪我は・・・していないみたいだな・・・」
サカキは優しく少女の頭を撫でた。
「あ、あの・・・ありがとうございます・・・。わたし、本当に怖かった・・・」
少女から怯えた表情が消え、愛らしい笑顔が戻る。
「わたし、チヨって言います・・・。お姉さんは・・・?」
「私はサカキ・・・。故郷を失って途方に暮れた旅人だ・・・」
サカキはそっと立ち上がり、北の方角を見つめ、寂しそうな顔をした。
チヨはサカキの気持ちを知り、手を引く。
「あの、わたし・・・。この先のマタイサ村の村民なんです。もしよろしかったら、わたしのいる孤児院にいらっしゃいませんか?」
「・・・そうか・・・、ちょうど近くの村で一休みしたいと思っていた所だ。・・・お邪魔させてもらおうかな・・・」
サカキはそう言い、チヨに優しい表情を見せた。

2

助けた孤児の少女チヨに連れられ、サカキはマタイサ村に入った。
マタイサ村は小さな村だが、村の中心に1件だけ大きな塔が立っていた。
「・・・ん?妙に場違いな塔だな・・・」
サカキはあからさまに不自然な塔に疑問を抱く。
「あれは、タイガータワーです。この村に金を貸して無理な取立てをしている、タイガーという男が住んでいる塔です」
「タイガー・・・、そういえば、さっきの男が言っていた名だな・・・」
チヨは悲しそうな顔を下に向け、サカキはチヨの頭を優しく撫でた。
「話さなくていい・・・」
「サカキさん・・・」
チヨは笑顔を取り戻し、孤児院へ案内した。

孤児院は、小さな教会の跡地を改装したもので、見た目はボロいが、子供達は仲良さそうに遊んでいた。
「アヤセさん!」
チヨは花壇に水をあげている優しそうな男性に声を掛けた。
「おやおや、チヨちゃん。大丈夫だったかい?」
「タイガーの手下に襲われたけど、この人が助けてくれました」
チヨはアヤセを安心させようと、笑顔で振舞い、サカキを紹介した。
「そうか・・・。ウチの孤児を助けて頂きありがとうございます・・・」
「あ、いえ・・・。私はただ通りがかりで、襲われてるこの子を見かけただけです・・・」
サカキは優しい表情で答えた。
「大したもてなしは出来ませんが・・・、お茶でも飲んでいって下さい・・」
アヤセはサカキを中に誘導した。
「チヨちゃん、ギラバイ街の市場で頼んだものは買ってきてくれたかい?」
チヨは買い物袋を取り出した。
「はい、ちゃんと買ってきました」
「よしよし、それじゃぁ。それをシマウー先生に渡してらっしゃい」
「はいっ!」
チヨはサカキ達と別れ、建物の奥へ向かった。
「さて、サカキさん。こちらへどうぞ・・・」
アヤセはサカキを孤児院中央の院長室に案内した。

3

「ゴルァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!」
「ひぃっ!!」
タイガータワー最上階、凶悪な表情のタイガーは雄叫びを上げ、さっきのチンピラはびびって動けなかった・・・。
「何しとんねん!このボケが!あのガキさらってこいゆうたやんか!!」
さっきのチンピラは、びびりながら事情を説明した「妙に強い女剣士が現れてあっさりやられてしまった」と。
それを聞いたタイガーはより険悪な表情に変わり、さっきのチンピラを睨み付けた。
「あぁ?女にあっさり負けただぁ?ざけとんかいワレェ!!小娘如きに負けて帰ってくる奴が何処にいるねん!!」
さっきのチンピラはボソりと「ここにいるねん・・・」とふざけて言ってみた。
「おい、今何つったぁ、”さっきのチンピラ”!!誰がダジャレかませと言うたぁ?」
「ひ、ひぃぃっ!!・・・”さっきのチンピラ”を名前みたいに呼ばないでくださ・・・」
「ウルァァァアアアアアアアアアッ!!!」
「ひぎゃぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
さっきのチンピラは腰を抜かして股間から黄色の液体を漏らした。
「ったく、使えねぇやつよのぅ。ワイはどうしても、あのガキを手に入れなあかんちゅーねん!」
タイガーは完全に不機嫌な状態で、椅子に座った。
「てめぇにもう1度だけチャンスをやるで!あと、そこの4人!お前らも一緒に孤児院に行ってこい!」
「はっ!!」
4人のチンピラ達はさっきのチンピラの後ろに立った。
「えぇか?今度こそ、チヨってガキを捕まえるんや・・・。しくじったらこの斧で5人ともまとめて叩き殺すさかい、覚悟しぃや!」
「は・・・・ははぁっ!!」
5人ともビビリながら、慌ててタイガータワーを出て行った。
5人が出て行った直後、―プルルルル、プルルルルル、ガチャ!
タイガーの元に一通の電話が来た。
「何じゃ?ワイじゃ!」
「私だ・・・」
「はっ、失礼致しました!シャドウ様!!」
シャドウという男の声が聞こえた途端、タイガーの態度が急変した。
「先程、チヨの誘拐に失敗したと聞いたが?どういう事だ?」
タイガーは冷や汗たっぷり掻いて、不自然に丁寧な口調で喋りだす。
「申し訳御座いません。私の部下が未熟で、今度は5人で向かわせましたので!はい、今度こそ必ずや、チヨを誘拐してみせます!」
「ふん、まぁよい。期待しているぞ・・・。タイガー」
「ははぁっ!シャドウ様!!」
―ガチャン!
タイガーは受話器を置き、疲れきった様子で椅子に座り込んだ。

4

「アヤセ院長、お茶が入りました」
「あぁ、そこに置いておいてくれ」
保母のシマウー先生がお茶を煎れて持ってきた。
アヤセは早速、湯気のたつ入れたてのお茶を口にした。
「ささ、サカキさんも冷めないウチにどうぞ」
「あ、どうも・・・」
サカキはアヤセに勧められ、お茶を口にした。
「・・・美味しい・・・」
サカキはお茶の美味さに感動していた。
「カオズシ産の茶葉ですから。やはり、美味い茶を飲むならカオズシ産に限りますな」
「そうですね・・・。私の村は雪の多い牧草地でしたから、縁はなかったと思います」
サカキはそういい村の事を思い出すように、暗い表情になった。
「おっと、これは失礼な事を聞いてしまったかな?」
アヤセはサカキの表情を見て慌てた。
「いえ、いいんです・・・。あの村は既に廃村になってますから・・・」
サカキは口元だけ笑って見せていたが、目の焦点はあっていなかった。
「私、ドイカホ村で生まれ育ったんです・・・。でも、4年前の内陸戦争に敗れて・・・」
「そうだったのか・・・、それは失礼な事を聞いてしまったね・・・」
「いえ・・・」
サカキは窓の外を見て、子供たちと戯れるちよちゃんを見つめた。
「あの子・・・チヨちゃんと言いましたね・・・」
「えぇ・・・」
「あの子は何故、ならずものなんかに襲われたんでしょうか・・・」
「え・・・?」
アヤセはサカキの質問に疑問を感じた。
別に、身内でもないサカキがチヨを気に掛ける意味はないだろうに・・・。
「あの子は親が既に他界しているのです・・・」
「え・・・」
考えてみれば当然の事だ。
そもそも孤児院にいる時点で親がいないのは解っている事なのだから・・・。
それでも、サカキはチヨの事を気にかけて一歩踏み出そうとしていた。
「彼女の親は、マタイサ村では知らない者はいない優秀な賢者だったのです・・・」
「賢者・・・?という事は、あの子も・・・」
「はい・・・。あの子にも親の血を引いて、あの歳で大人顔負けの魔道の力を持っています・・・」
アヤセは窓の外で子供達と戯れるチヨを優しい表情で見た。
「しかし、彼女の親の魔力に都合が悪いと思った者がいたのです・・・」
「そ、それは・・・?」
「それが、あの男、タイガーです・・・」
「タイガー・・・あのタワーの主・・・ですね・・・」
サカキは驚いた表情でアヤセを見た。
「タイガーにとって都合が悪過ぎたチヨの両親を、部下に命令して寝首を掻き殺害させたのです・・・」
「なんて・・・酷い事を・・・」
サカキの眉間にシワがよった。許せなかった・・・。自分の支配の邪魔者を殺してしまえばいいという発想に・・・。
4年前の内陸戦争と何も変わらない発想・・・。それがどうしても許せなかった・・・。
「私は偶然、早朝の散歩で家を焼かれ、両親に死なれ、燃えカスの前で泣き崩れているチヨを発見して保護したのです・・・」
「そんな事があったんですね・・・」
「それから、チヨはここで一番年長というのもあって、子供達のお姉さん代わりになってくれているんです」
アヤセはそう言い、微笑んで見せた。
サカキはアヤセの話を聞き、外を見ると、子供達がいなくなっていた。そろそろ、勉強の時間なのだろう・・・」
そう思っていた矢先だった・・・。
「い、院長大変です!!」
シマウーが院長室に慌てて入ってきた。
「どうした?シマウー」
アヤセはシマウーの動揺に疑問を抱く。
「チ、チヨちゃんが・・・、タイガーの一味に拉致されました!!ど、どうしよう・・・」
「な、何ですって!?」
迂闊だった。チヨちゃんは賢者の娘でタイガーに狙われている。それを知っていれば、近くにいてやるべきだったのに・・・。
「お、落ち着いて下さい!シマウー先生・・・」
アヤセはシマウーの肩を押さえ、落ち着かせようとする・・・。
「シマウーさん。相手はタイガーの部下なんですね?」
「は、はい・・・」
サカキは立ち上がり、シマウーに尋ねた。
「アヤセさん、私・・・タイガーを倒しに行きます」
「な、何ですって!?タイガーは狂戦士と呼ばれる程の強い斧使いですぞ?」
アヤセは必死にサカキを止めようとするが、サカキは聞こうとはしなかった。
自分と似た境遇のチヨちゃんをなんとしても救いたいという想いがあったから・・・。
「大丈夫、チヨちゃんは絶対に助け出します・・・」
「サカキさん・・・」
アヤセは何か吹っ切れた気分になり、そのままサカキを送り出した。

5

「ここが、タイガータワー・・・か。近くで見ると結構大きいな・・・」
サカキはそう言い、タイガータワーに真正面から突入した。

「タイガー様!!大変です!!」
「んなんじゃいっ!!」
部下の1人がタイガーの元にやってきた。サカキの事を知らせる為に。
「たった今、サカキと名乗る女がタワーに正面から突入してきて・・・」
「ほぉ・・・」
タイガーはにやりと口元が歪んだ。
「へっ、アンタの言う通りになったみたいだなぁ、賢者ミハマの娘・チヨ」
タイガーは横で縛り付けられたチヨを見て言った。
「だから、言ったじゃないですか!サカキさんならきっと来てくれる・・・。そして、あなたなんか・・・」
タイガーはチヨの襟首を掴み、にらみつけた。
「口の利き方には気をつけろよ、ガキ。ワイが女剣士ごとに負けるなんて考えられへんな」
「サカキさんは負けません!!あなたの相手になんか・・・」
「けっ、上等じゃ・・・」
タイガーはチヨの襟首を離した。
「サカキっちゅう女をここまで通せ!ワイが直接ケリを付けてやろうやないか!!」
タイガーは嫌な薄笑いを始めた。相当自信があるのだろう、女剣士ごとき敵ではないと・・・。

「妙だな・・・、さっきから大人しい・・・」
サカキは好戦的だった敵が控えめになったのに疑問を抱いた。
そして、敵の1人がサカキの前にやってきた。
「次はお前だな・・・」
「ま、待ってくれ!!」
チンピラの1人は慌てて怯える。よく見ると丸腰で闘う気がまるでないらしいかのように・・・。
「オレぁ、あんたとやり合う気はねぇよ!ただ、タイガー様に頼まれただけでぃ!」
「頼まれた?」
サカキはおかしな発言に首を傾げる。
「タイガー様があんたとヤりたいと言っているんでな・・・」
そう言い、チンピラはエレベーターにサカキを乗せ、最上階へ案内した。

「よぅ、来たのぅ・・・」
サカキは最上階のタイガーの部屋までチンピラの案内で悠々と辿り着いた。
タイガーは身長190cmのガタいのいい男で、人相が非常に悪く、正しく「虎」のイメージそのものだった。
「ほぅ、アンタがサカキっちゅう女剣士かいな。思っていた以上にスリムやなぁ・・・」
「お前が、タイガーか・・・。今すぐチヨちゃんを解放しろ!そして、村人のサラ金地獄からも救ってやるんだ・・・」
サカキはタイガーに剣を向けて脅すが、タイガーはにやにや笑うだけで聞く耳を持つ気はなかった。
まぁ、タイガーに利益は何もない用件だ。当然の行為だろう・・・。
「そんなにこの小娘や村人を救いたいんか?だったら、腕っぷしでかかってこんかい!!」
タイガーは巨大な斧を構えて、サカキを睨み付けた。
「いいだろう・・・」
サカキはそういい静かな瞳で、タイガーを見つめ、剣を構えた。
「往生せぇやぁぁぁぁああああああっ!!」
タイガーは思い切り斧を振り被り、サカキに向かって斬りかかった。
―ボコッ! タイガーの斧の威力でコンクリート敷の床に大きな穴が空いた。
「どや?これがワイの最強の武器・デモンアスクや!!」
「確かに、こんなの喰らったら一溜まりもないな・・・」
タイガーの武器に関心しつつ、サカキは汗一つかかず、笑みを浮かべていた。
「何や?気に食わん面やなぁ!!オラァ!!」
―バキッ! タイガーはデモンアスクでサカキを襲うが、周りのモノを無意味に破壊するばかりで、サカキには当たらない。
「はぁ・・・はぁ・・・すばしっこい小娘やなぁ・・・」
タイガーは、大量の汗をかきながら息を切らしている。あれだけ動き回って殆どが空振り、当たっても障害物破壊しか出来ず、
体力を完全に奪われていく。
その隙にサカキはタイガーのフトコロに入り込んだ。
「おっと、ワイの間合いに自分から飛び込むたぁ、ええ根性やぁぁぁああああっ!!」
―びしっ! タイガーはフトコロのサカキに向かって斧を振るうが、
「な、なんや!?こいつは鞘!?」
サカキがいると思われたポイントにはサカキの剣の鞘だけが残され、サカキの姿は無かった。
「後ろだ・・・」
「何っ?」
タイガーが振り向くと剣を振り下ろしたサカキが立っていた。
「この野郎、いつの間にワイの後ろに・・・」
「勝負は着いた・・・」
サカキは静かに目を開いた。その瞬間・・・
―シュパパパパパパッ!! 一瞬で服が裂け、身体中に打撃跡が無数現れた。
「なっ・・・くそ・・・何故や・・・」
―ドサッ! タイガーはその場に倒れこみ気絶してしまった。
サカキはチヨに近付き、縄をほどいてやり、優しく頭を撫でた。
「チヨちゃん、怪我は無かったか?」
サカキはチヨに優しく語り掛け、微笑んだ。
「・・・・」
チヨは目を丸くし、空いた口が塞がらない状態だった。サカキの剣の腕に驚き、何も言葉が出なかったのだ。
「ち、チヨちゃん?」
「す・・・すごいですっ!!全然、剣筋が見えなかった・・・」
「修行したから・・・、チヨちゃんよりも小さな頃から・・・。それよりも・・・」
サカキは背後を睨み付けた。タイガーを倒したとはいえ、部下は半数程残っていて、全員タイガーの部屋に集まっていたのだ。
「これを、どう切り抜けるか・・・か」
「・・・サカキさん、少し伏せてもらえますか?」
「え?」
サカキはチヨに従い、うつ伏せになった。
「天空に漂う風を、我に味方し、その力を解放せよ・・・。ウイニング・ハリケーン!!」
「なっ!!」
「ひやぁぁあああああああああっ!!!」
チヨが呪文を唱えた途端に、チヨの背丈より上空に巨大な竜巻が起こり、タイガータワーの天辺ごと、チンピラ達を一掃した。
「ふぅ・・・」
「な・・・・」
サカキはチヨの魔道の実力に空いた口が塞がらない・・・。
「こ、これは・・・上級の風魔法・・・」
「どうですか?これが、賢者・ミハマの娘の実力ですよ」
チンピラ達は立ち上がる力すら無くすほど腰を抜かしていた。

6

「皆っ!!よく聞いてほしいっ!!」
サカキは身動きが取れない上、立ち上がる力も失せたタイガーの腕を掴んで掲げた。
「これより、この村はタイガーの支配から解放するっ!!」
村人はサカキの声を聞き、集まり出した。
「ここにみんなの借用書がある。好きなだけ破くなりしてくれ!」
サカキは適当な借用書をかざした。
「やったぁ!!タイガーの支配から解放されたんだぁぁっ!!」
「うぉぉぉおおっ!!誰かは知らんが、よくやってくれた!!」
「もうお金の事を気にしないで生活出来るなんて幸せだわ〜!」
「ビビりながら暮らせるなんて、ありえなぁ〜い!!」
「タイガー・・・貴様、今までよくも卑劣な事をしてくれたなぁ・・・」
村人達は盛大に喜び、借用書を破き、身動きが取れないタイガーを袋叩きにした。
「サカキさん、ありがとうございました!」
「私はタイガーのした事が許せなかった・・・。それだけだ・・・。君の方こそ風魔法凄かった・・・」
「えへへ・・・。これで、この村に平和が訪れるんですね!」
「あぁ・・・きっと・・・」
サカキとチヨは向き合って笑った。その時だった・・・。
―ピシュ! 黒い光がタイガーを襲った。
「ひぎぃゃぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!!」
タイガーは悲鳴を上げ、闇に飲み込まれた。
「な、何だ!?」
「こ、これは・・・闇魔法!?だ、誰が・・・!?」
人ごみのから、―ククッ、と。笑い声が聞こえる。
「やれやれ、折角上手く行くかと思ったが、タイガーも所詮小娘如きに倒されるただの雑魚だったか・・・」
「だ、誰だ!!」
「・・・え?」
人ごみの中から姿を現したのは・・・。
「サカキとタイガーが相打ちになると思っていたが、力の差がこれほどあるとは思っても見なかったぞ・・・」
「・・・うそ・・・・」
「・・・アヤセ院長!?」
・・・アヤセが人ごみの中から出てきた。
「せ、先生!?何で・・・どういう事ですか!?」
「くっくっくっ・・・ふはははははは・・・」
アヤセは不気味な高笑いをし、閉じて笑っていた目が開き、不気味な光を帯びていた。
「貴方が全ての元凶だったんだな・・・アヤセ!」
サカキは冷静な目でアヤセを睨みつけた。
「ふっ・・・、ご名答・・・」
「どういう事ですか!?」
チヨは認めたくないのか、現実に向き合うのが怖いのか、サカキが言う事に信じられない目をしていた。
「賢者・ミハマ夫婦を殺害させたのも、タイガーを使って村を支配させたのも全て・・・貴様の仕業だったんだな・・・?」
「そ、そんなウソです!!先生がわたしの両親を・・・?タイガーを・・・?」
チヨちゃんは、涙をボロボロ流し、否定する。両親を失った自分を一番愛してくれた人が悪の親玉なんて信じたくないから・・・。
「チヨ、そう悲しむ事はない・・・。安心なさい・・・」
アヤセは、怪しいニヤケ面でチヨちゃんを見つめた。
「すぐに、両親に合わせてあげるからねぇ・・・くっくっくっ!!」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!!」
チヨは耳を塞ぎ込み、その場でしゃがみ込んだ。
「いい事を教えてあげよう。私はお前が憎かった。ミハマ夫妻の殺害の際にタイガーが取り洩らしたお前が・・・」
アヤセはチヨの目の前で見下した目で見つめた。
「そして、私の手足のようにコキ使うつもりで頼みごとをして、タイガー一味に殺害させたりもしたんだ・・・」
「う、ウソです!!そんな・・・」
「アヤセ・・・・」
チヨちゃんの前にサカキが立った。
「孤児院でチヨちゃんを襲わせた時、私1人を院長室に誘い込んだのも・・・、タイガーの部下が安心して拉致出来るようにする為だったんだな・・・」
「その通りだ・・・。ただ、私にとって大きな誤算があったがな・・・」
「誤算・・・?」
「そうだ!サカキ、お前さえいなければ、私は完全な支配者になれた。お前さえいなければな・・・!!」
アヤセはニヤケ面から怒りの表情に変わった。
「死ね!!ダークフォール!!」
「なっ!!」
アヤセは黒い気の塊を放出した
―ザッ! サカキは何とかかわすことは出来たが、アヤセの猛攻の中自分の間合いに入れず苦戦していた。
「くっ!厄介な相手だ・・・。迂闊に距離を詰められない・・・」
サカキは避けるのでやっとの状況であった。
「さ、サカキさん!!」
ようやく、チヨは冷静になり、立ち上がった。
「アヤセェェェェエエエエエエエエッ!!!」
チヨは雄叫びを上げ、アヤセを睨み付けた。
「わたしはあなたを許さない!!これで、始末を付けます!!アグネスフレイムッ!!」
チヨは炎魔法で、アヤセに奇襲を仕掛けた。しかし・・・・。
―ギュイーン! 炎は闇に飲まれてしまったのだ。
「ほ、炎がぁっ!!」
「ククク・・・相性が悪かったな・・・。炎魔法、雷魔法、水魔法、風魔法、樹魔法。全て私には効かんのだよ・・・」
「そ、そんな・・・・」
チヨは相性の悪さに挫折してしまった。チヨの使える魔法はすべて通用しない闇魔法使い。最悪の相手だった・・・。
今のチヨでもサカキでも勝ち目のない相手が目の前に立ちはだかり2人は絶望してしまった。その時、
「そんな事はないで!」
―シャイン! 
「な、何だ!?ぐぉおおおおおおおおっ!!」
サカキとチヨの後ろから光が飛んでいき、アヤセを襲った。
「今のは一体!?」
「今のは、光魔法!?誰が・・・」
2人が後ろを振り向くと、そこには教会の修道士が立っていた。
「最強の魔法使い、闇魔法・・・。でも、弱点だってあるんやで・・・」
「闇の弱点・・・光・・・ですか・・・。でも、そんな高度な魔法使いなんて・・・」
「君は一体・・・・?」
「あたしは、アユム・・・。都市カサオオの教会のただのシスターや」
そう言って、アユムは笑みを浮かべた。
「く、くそぉ!!覚えてろ!!お前達!!今度は命を落とすと思え!!」
アヤセは遠吠えし、そのまま去っていった。
「待て!アヤセ!!逃げるのかっ!!」
「追わんでもええよ、もうヤツには逃げ道はあらへんから・・・」
アユムは冷めた目でアヤセを哀れそうに、見放した。
「さてと、余計な首突っ込んでもうたなぁ・・・。あたし、カサオオに帰らねばあかん!」
アユムはあっさり帰った。
「カサオオ・・・か」
「サカキさん?」
サカキはアユムを見てふと思ったのだった。「カサオオ、そういえばタイガーと同じ方言だな」と。
こうして、闇魔道士・アヤセもタイガーもいなくなった、マタイサ村に平和が訪れるのだった。

7

マタイサ村、孤児院・地下倉庫。行き場を失ったアヤセはこの場所に逃げ込んだ。
「ちくしょう、あと少しという所で・・・。あの修道士は何者なんだ・・・。クソッ!」
「あらあら、結局全然駄目だった訳ね・・・」
「っ!!お前達は!?」
アヤセの後ろからペガサスナイトの美人な女と黒いローブを被った最上級闇魔道士の少女が現れた。
「あらぁ、女に向かって「お前」はないんじゃない?」
「アヤセ・・・、我が組織の掟。知らぬとは言わせない・・・」
「ひっ!」
アヤセは怯えながら、全力疾走で逃走しだした。
「敗北者に死を、それが組織の掟・・・」
そういい、黒ローブの少女は上級の闇魔法でアヤセを襲った。
「ひぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああっ!!!」
アヤセは悲鳴を上げ、骨も残らずあっさり殺されてしまった。
「ふふっ、相変わらず厳しいのね、エナ・・・」
「わたしは自分のやるべき事をやっただけだ・・・アサギ」
「それにしても、剣士・サカキか・・・。あそこまで強いのがまだゴットゥーザ軍以外に居たなんて、驚きだわ・・・」
「だが、あの程度の剣筋なら、まだヤンダの方が遥かに上だ・・・」
「・・・本当に厳しいね。エナって・・・」
真面目なエナにアサギは呆れていた。
「いくぞ、アサギ。ゴットゥーザ様に報告だ」
「はいはい、行きますよ」
2人はマタイサ村を後にした。

8

「それじゃ、私は行きます・・・」
サカキは村人達を前に別れの挨拶をし、荷物を取った。
「色々と、ありがとう御座いました・・・。また、ここに来る事があったら、是非、孤児院に寄って下さいね」
シマウーはサカキに笑顔で言い、「えぇ、是非・・・」と、サカキは笑顔で返事を返した。
そして、サカキは1人村を後にしたのだった・・・が。「待ってくださいっ!!」と、チヨがサカキを呼び止めた。
「チヨちゃん?」
村を出ようとするサカキをチヨが止めた。よく見ると、チヨも旅荷物を背負っていた。
「チヨちゃん、どういうつもりだ?」
サカキは心配そうに話し掛ける。
「わたしも一緒に旅をさせて下さい!!」
「ダメだ。危険過ぎる・・・。君はここに残った方がいい・・・」
サカキはチヨの申し出を拒否した。サカキには解っていたのだ。ここから先、アヤセやタイガーよりも強い相手もいる。
最悪の事態だと、自分を守る事すら危うい相手にも遭遇する事もありうる。そんな事態に陥った時に、チヨを助ける自信がないのだ。
「わたしなら心配要りません!もし、命を落とすような事になっても心配する人なんていませんから・・」
そう言い、チヨは寂しく笑いかけた。
「孤児院の子供達はいいのか・・・。君を姉のように慕っていたじゃないか・・・」
サカキとチヨが連れて行く行けないで揉めている中、シマウーと子供達が2人の前に来た。
「サカキさん、この子を連れて行ってもらえませんか・・・?この子もそれを望んでいます・・・」
「いや、しかしですねぇ・・・」
サカキは返事に困った。「チヨ姉ちゃん、がんばれ」と子供達も励ましていて、断りずらくなっていたのだから・・・。
「実は、孤児院にさらわれた友達がいるんです・・・。闇魔法使いの子が・・・。その子をわたし助けたい!」
「!!」
サカキは言葉に詰まった。もしかしたら、この子が探している子が旅の途中で見つかるなら・・・。会わせたい・・・。
「・・・さらわれた・・・?」
「エナちゃんって子が、3年前に行方不明になっているんです・・・。今、何処で何をしているか・・・」
チヨは、寂しそうに顔を俯かせて今にも泣きそうな顔をしていた。
「・・・しかし、この旅は決して楽じゃない・・・。アヤセより強いやつもいるだろう・・・」
「覚悟はしています!」
チヨはサカキの目を真剣な目で真っ直ぐ見つめた。
「・・・解った。君は覚悟が本当に出来ているようだな・・・。行こうか、チヨちゃん・・・」
「はいっ!!」
こうして、2人はマタイサ村を後にした。
サカキは魔道士の少女・チヨを新たな仲間に引き入れ、心配ではあるが、少しは楽しい旅が出来そうだ。そう思うようになっていた。

続

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