第3話:逆転のティータイム 2日目・法廷 後編
同日 午後1時2分 地方裁判所 被告人第2控え室

唯「ふぃ〜、一時はどうなる事かと思ったよ・・・」
唯は初めての裁判で疲れたのか、溜息をついた。
ちよ「唯さん、さっきの太さんの証言ですけど・・・」
わたしは太が証言したワイヤーについて訊いてみた。
唯「あぁ、ワイヤーがどうとかって話だよね?脂望さんって人の証言には間違いないと思うよ。いくらあたしでも、そんなワイヤ
ーがあったら気付くし・・・」
澪「そうだな・・・。でも、そうなると・・・気になるのは死体の落とし方だな・・・」
2人の意見は太に同意したもので、太の証言に間違いがない事を確認したわたしは、2人に気になる質問をしてみた。
ちよ「唯さん、澪さん。2つ質問があるんですけど・・・」
唯「ん?何かな?」
ちよ「1つは、先程の脂望さんが琴吹紬の伝票を出しましたよね?」
唯「あぁ、それならあたしも聞いているよ。確か、あの日にムギちゃん新しいキーボードを注文してたんだよ」
澪「そういえば、ムギが調律が効かなくなったから、新品を購入するとか言っていたよな?」
2人の意見はやはり一致した。紬が注文依頼をしたのも間違いなかった。
ちよ「あと、澪さん。田井中律は貴女と一緒にいたと聞いてますけど・・・。席は外しましたか?」
澪「いや?あの休憩時間ではずっと一緒だったけど?・・・って、おい・・・まさか、アンタ・・・。律を疑っているのか?」
澪はわたしの質問に勘付き、訊き返した。
ちよ「まだ証拠はありません・・・。でも、田井中律は何かを隠している・・・。彼女の隠している事が恐らく、事件のカギを握って
いるかもしれないんです・・・」
澪「ならいいけど・・・、はっきり言っておくよ。律は大雑把でキレやすいけど、殺人だけはする様な奴じゃない・・・。それだけは
保障出来る・・・」
ちよ「澪さん・・・」
律の幼馴染だけに、澪ははっきり断言した。誰よりも親しい関係だからこそ言える事なんだろうなぁ・・・。
恵那「・・・・・・ん?」
恵那は伝票を見ながら、何かを考えていた。
ちよ「恵那ちゃん、どうしたの?」
恵那「ちょっと、気になる事があるんだけど・・・。この伝票・・・」
恵那は伝票をわたしに見せると、ある一部分を指示した。
恵那「伝票の切られた時間が何かおかしいんだよね?」
澪「ちょっと見せて貰っていいか?」
澪は恵那から伝票を受け取ると、顔色が悪くなった。
澪「お、おい・・・。これって・・・」
ちよ「み、澪さん?」
澪「弁護士さん、この部分を・・・」
係官「弁護人、被告人!まもなく休憩時間が終わります。法廷に御戻りください」
わたしは法廷係官に会話を遮られ、澪の話を最後まで聞けなかった。あの伝票・・・何がおかしかったんだろう・・・。

同日 午後1時20分 地方裁判所 第6法廷

ざわざわざわざわざわ・・・・・・
カン!
裁判長が傍聴人を静粛にさせると、審理が再開された。
裁判長「それでは、審理を再開します。水原検事、証人をお願いします」
よみ「了解した。まずは、『放課後のティータイム』リーダーの田井中律を入廷させてもらおう」

同日 午後1時22分 田井中律の証言

早速、本日の本命が召喚された。
よみ「それでは、証人。名前と職業を」
律は法廷係官に案内され、証言台に立った。
律「はい。名前は、田井中律。担当パートはドラムだ」
よみ「まず、証人。君は確か、ラストナンバーが始まる直前に控え室に居たそうだな」
律「はい。澪と2人でずっと居たからアリバイ証明は出来るよ」
『待った!』
わたしは間髪入れずに待ったを掛けた。
ちよ「澪さんと2人で何をしていたか証言出来ますか?」
律「あぁ、新曲作りを2人で考えていたな。まだ未完成だけど、その時作った楽譜と歌詞は持って来たけど・・・」
裁判長「その楽譜と歌詞を受理します」
楽譜と歌詞のコピーがわたし達の手元に来た。歌詞の内容はやや乙女チックで退いてしまいそうになる内容だ・・・。そういえば
ライブ聴いた時も、歌詞は今一つだったなぁ・・・。
よみ「ま、まぁ・・・歌詞の趣味はいいとして・・・。これで、証明になっただろう・・・」
律「あ、ちなみに歌詞書いたの、澪だから・・・」
一同「・・・・・・」
法廷中が傍聴席にいる澪に冷たい視線を送った。
澪「そ、そ、そんな目で見るなぁ〜!!」
カンカン!
裁判長「はい、静粛に!審理を続けて下さい」
裁判長はとりあえず場を収め、先へ進めた。
よみ「ま、まぁ・・・とにかく。新曲作りをしていたという事で間違いないな」
律「間違いないです!ちなみに、楽譜は私が作ったんだけどね」
ちよ「律さんが・・・」
わたしは律が楽譜を作ったというので、楽譜に目を向けてみた。すると、奇妙なモノを発見してしまった。
裁判長「ふむぅ、どうやら。2人で新曲を作ったと考えて間違えない様ですな・・・」
律「みなさん、理解が早くて助かるわ〜」
『異議あり!』
わたしは、律に指を突きつけ、異議を申し立てた。
ちよ「田井中律っ!!」
律「な、何だぁ?」
律は突然に異議申し立てに、驚いた。
ちよ「この楽譜ですが、貴女が書いたのに間違いありませんね?」
律「ねぇよ。澪も証言してくれるし、気になるなら筆跡鑑定してくれてもいいぜ」
『異議あり!』
よみが異議申し立てし、切り返した。
よみ「弁護人。それがどうしたというのかな?」
ちよ「この楽譜見て下さい!!」
わたしは楽譜の楽器の名前が書かれた部分を指した。
裁判長「楽器の名前がありますな。ギター・ベース・キーボード・ドラム・・・。それがどうかしましたか?」
バン!
わたしは裁判長の発言に対し、机を叩いた。
ちよ「それが既に問題なのです!!『放課後のティータイム』は5人組のバンドでギターが2人のチームです!!」
裁判長「あっ!!言われてみればそうです!!」
律「・・・・・」
律はわたしの指摘に対し、険しい表情をしていた。
ちよ「田井中律!!この楽譜に掛けたもう1人のメンバーは何処にいるんですか!?」
『異議あり!』
わたしの発言によみが異議を申し立てた。
よみ「やれやれ、まだまだ甘いな、弁護人。足りない1人なら、別パートがあるじゃないか」
ちよ「何ですって?」
よみは歌詞を持ち出して、わたしに突きつけた。
よみ「ボーカル・・・。この新曲は、ボーカル・ギター・ベース・キーボード・ドラムで結成される様に作られた作品なのだ!!」
『異議あり!』
わたしはよみの発言に異議を申し立てた。
ちよ「よみ検事!!貴女には、『放課後のティータイム』のライブを生で見る事をお薦めします!!」
よみ「何だと?」
ちよ「このライブビデオを見て下さい!!」
わたしはライブビデオで、歌っているシーンを見せた。そこには、ギターを弾きながら歌う唯や、ベースを弾きながら歌う澪の姿が映されていた。
よみ「なっ!!こ、これは・・・・」
ちよ「『放課後のティータイム』は、常に楽器とボーカルを両立しているバンドなんです!!それなのに、パートが1人掛けてい
るのは、明らかにおかしい!!如何ですか!?田井中律さん!!」
律「・・・・・」
律は俯いて黙り込んでしまった。
裁判長「た、田井中律さん?」
裁判長は律の様子がおかしいのに気付き、尋ねると。律は突然、ほがらかに笑いだした。
律「あっはっはっはっはっ!!いやぁ、流石は弁護士さんだなぁ・・・」
よみ「しょ、証人!!どういう事だ!?」
よみは律の意外な反応に対し、汗だくになりながら尋ねた。
律「どういう事だ?弁護士さんが説明した通りだよ!この新曲は4人で演奏する為に作ったモノだ!!」
ざわざわざわ・・・・
カンカンカン!
裁判長「静粛に!静粛に!静粛に!」
裁判長は必死に騒ぎを抑えた。
ちよ「つまり、田井中律!!貴女は死体が出てくる前に、殺人が起きて平沢唯が逮捕されるのを想定していたというのですか!?」
わたしが律に指を突きつけると、律は睨み返してきた。
律「誰もそんな事言ってないだろ?ただ、どうせ4人になっちまうんだから、4人でやれる曲を作曲して何が悪いんだ?」
裁判長「ど、どういう事ですか!?証人!!」
裁判長は何も知らない為、混乱しているが、そこにわたしが言葉を挟んだ。
ちよ「ま、まさか・・・!!『平沢唯のソロデビュー』ですか!?」
『異議あり!』
よみは間髪入れずに、異議を申し立てた。
よみ「待て!『平沢唯のソロデビュー』はまだ決定している事ではない!!そんな強引な作曲許されるべきではない!!」
律「フン!どうとでも言えよ。どうせ、唯はソロでデビューしちまうんだ。そしたら、4人でやれる曲の用意くらいなぁ・・・」
『異議あり!』
わたしは律の発言に異議を申し立てた。
ちよ「律さん!待って下さい!!そもそも、唯さんはソロデビューはしないって言ってましたよ!!」
律「な、何言っているんだよ?唯は仲間を置いて、ソロでデビューするに決まっているんだよ!!」
ちよ「どうしてそう言いきれるんですか!?」
律「さわちゃんに聞いたから・・・。山中さわ子からそう聞いたんだよ!!」
ちよ「な、何ですって!?」
わたしは冷や汗まみれになった。留置所で聞いていた話とは違う・・・。唯が認めてる事ですって?
唯「律っちゃん!!違う!!あたしはソロデビューはしないって・・・、今のメンバーのままでやりたいって・・・そう言ったんだよ!!」
被告席の唯が乱入してきた。
律「何、綺麗事言ってんだよ!!聞いたぜ?お前、ソロデビューやれるって喜んでいたらしじゃねぇか!!」
唯「ち、違う!!あたしは今のメンバーがいいの!!今のままでやりたいの!!お願い信じて、律っちゃん・・・」
カン!
裁判長「こ、コラ!被告人は席を立たないで下さい!!証人も喧嘩しない様に!!」
裁判長に注意を受けた唯は、係官に取り押さえられ、被告席に座りなおされた。
裁判長「どうやら、落ち着いた様なので、再開しましょう。他に何か質問ある方は?」
ちよ「それでは、1ついいですか?」
裁判長「どうぞ」
わたしは裁判長の許可を受け、律の尋問を続けた。
ちよ「律さん、貴女自身はどうなんですか?」
律「どうって?」
ちよ「唯さんと山中さわ子の意見を無視して構いません。貴女本人はどう思っているのですか?『平沢唯のソロデビュー』に対しては・・・」
律「私は・・・その・・・。唯がソロでやるって言うなら、精一杯送り出してやりたい・・・。で、でも・・・・」
律の目から突然、涙が溢れ出した。
律「私だって・・・私だって・・・今のメンバーのままでやりたい!!このメンツが好きだから・・・、だから・・・引き止められるくらい
なら引き留めてたい!!」
律は目を擦りながら、叫んだ。
ちよ「そう・・・ですか・・・」
わたしは、これで律の違和感に納得した。律は意地を張っていただけなのだ。さわ子に嘘を吹きこまれ、唯を許せなくなり、あ
んな態度を取っていたんだ・・・。
よみ「・・・さて、長くなったが・・・。納得はしたかな?弁護人・・・」
よみは、不敵に笑いながら話し掛けてきた。
よみ「この尋問で抑えるべきポイントは2つ。田井中律のアリバイと動機だ。動機はあいまいだし、アリバイは完璧だ。如何かな?」
ちよ「う・・・」
わたしはすっかり忘れていた。自分自身が立証しなくてはならない事を・・・。律から本音は聞き出せたが、肝心の犯行の証拠がなかった。
よみ「以上で、田井中律の尋問を終了させて頂こう・・・」
裁判長「解りました。ごくろうさまでした、田井中律さん・・・」
律は裁判長に言われ、係官に案内され退廷した。
よみ「それでは、次の証人を召喚させてもらおう」

同日 午後2時43分 中野梓の証言

法廷係官に案内され、梓が証言台に立った。
よみ「それでは、証人。名前と職業をお願いする」
梓「中野梓です・・・。パートはサブギターを担当しています」
よみ「中野梓、君はラストナンバー直前の休憩中、被告人の妹・平沢憂と自動販売機で飲み物を買いに行っていたそうだな?」
梓「は、はい・・・。間違いありません・・・」
梓は緊張しているのか・・・、ずっと震えていた。
よみ「それでは、君が飲み物を買って、控え室に戻るまでの間に起こった事を証言して頂こうか・・・」
梓「・・・・・・」
梓は突然、何かを怖がるかの様に震えだし、黙り込んだ。
よみ「・・・?証人?」

梓「・・・・・・・・・も、黙秘します」
よみ「な、何だとぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!?」
ざわざわざわざわざわ・・・・
カンカンカンカン!
裁判長「静粛に!静粛に!静粛に!!」
裁判長は梓の予想外の発言で騒ぎ出した傍聴人を必死で静めた。
裁判長「証人!!どういう事ですかな?突然の黙秘とは?」
梓「す、すみません・・・。確かに、わたしは憂と2人で飲み物を買いに行きました。そ、そ、そ、それだけです!!」
梓の顔色が妙に優れない上、突然の黙秘。そんな時だった・・・。
『異議あり!』
よみ「証人・・・。顔を上げてくれないだろうか?」
よみは、梓の黙秘に異議を申し立てた。
よみ「君が何に怯えているかは知らん。だが、中途半端に何かを隠そうとするのは違法ではないかな?我々を信じて、話して
みてはくれないだろうか?」
梓「そ、その・・・・・・・・・・・・・・黙秘します」
よみが説得してみるが、梓は頑なに黙秘を続けた。
よみ「解った・・・。捜査員が1人欠けるのは痛いが、事件が解決するまで君に部下の刑事を一名護衛として付けよう・・・」
梓「本当・・・・ですか?」
さり気なく、部下をコキ使うよみ。気の毒なジャンボ刑事・・・・。
梓「・・・解りました。お話します」
梓はジャンボを護衛に付ける約束を受け、ようやく話をしてくれる様になった。相当、怖いものを見たのだろうか?
梓「わたし、確かに憂と飲み物を買いに行きました。その時に、例のギターが発見された倉庫を通り過ぎて、角を曲がった時だ
ったんです・・・」
よみ「何を見たのかな?」
梓「倉庫から人が出てきたんです!!」
裁判長「人ですと?それは、調律をしていたという平沢唯の事でしょうな?」
梓「・・・・・」
裁判長が発言すると、梓は顔を俯け、一旦黙り込んだ。
梓「・・・・ち、違います。わたしが控え室に戻ってきた時には、唯先輩は既に控え室に戻った後でした!」
よみ「な、何だとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!?!」
ざわざわざわ・・・
カンカン!
裁判長「静粛に!静粛に!」
裁判長は騒ぎ出した傍聴人を静めた。
裁判長「ど、どういう事ですかな?・・・倉庫から出てきたのは・・・平沢唯ではない?」
『異議あり!』
梓の発言によみが異議を申し立てた。
よみ「し、しかし!!平沢唯以外はあの時間に倉庫に居たこと認めた者はいない!!見間違えではないのか?」
梓「見間違えじゃありません!あの距離なら唯先輩が出てきた時点で気付けます!!」
よみの反論に梓は強く反発した。
よみ「ぬぅ・・・。しかし、平沢唯以外に倉庫を利用するものなど・・・」
『異議あり!』
倉庫から出てきたのが唯だと引かないよみにわたしは異議を申し立てた。
ちよ「よみ検事・・・。だったら、聞いてみましょうよ。梓さんが見た人物が誰なのか・・・・。それではっきりしません?」
よみ「うむ・・・・止むを得ん・・・か」
ちよ「梓さん、誰だか解りますか?」
わたしが質問すると、梓は考え込んだ。
梓「そうですねぇ・・・。顔だけははっきり覚えているんですけど、あの人の名前を知らないのではっきりしません・・・」
裁判長「ふむぅ・・・はっきりしない・・・」
ちよ「だったら、何か特徴とか・・・」
梓「特徴・・・ですか?う〜ん・・・・・・・。・・・あ!そういえば、あの人、ヒゲ!!ヒゲを生やした男の人でした!!」
『異議あり!』
よみは梓の発言に異議を申し立てた。
よみ「残念だが、証人。スタッフ関係者にヒゲを生やした男は何人もいる。その証言は認められない・・・」
梓「そ、そんな!!わたし見たんです!!あの男の人を!!」
よみ「・・・梓クン。君にはちゃんと護衛を付ける。だが、この証言は証拠にはならんな・・・」
『異議あり!』
わたしはよみの発言に異議を申し立てた。
ちよ「しかし!梓さんは、顔だけはしっかり覚えている!!これは正式な証言だと思います!」
『異議あり!』
よみ「残念だが、顔だけ覚えていても、肝心の人間が誰だか解らなければ意味はない・・・」
ちよ「ぐっ!!」
わたしは、梓が持っていた最強カードを手放す羽目になった。
よみ「法廷係官、中野梓を控え室で休ませてあげたまえ」
中野梓は係官に連れられ、退廷させられてしまった。
よみ「さて、寄り道をしてしまったが、次で最後の証人だ」
わたしは、全てを失った感じだった。もう、逆転のチャンスは完全にない・・・。

同日 午後3時12分 琴吹紬の証言

係官に案内され、紬が証言台に立った。
よみ「証人、名前と職業をお願いする」
紬「はい。琴吹紬といいます。担当はキーボードをやっております」
よみ「それでは証人。君はラストナンバーが始まる前の休憩時間に、トラックヤードの搬入口にいたそうだな」
紬「はい。斉藤さんと脂望さんと一緒にいました」
よみ「その時、誰か他の人は見たかな?」
紬「いいえ。本番前でしたので、スタッフは皆中にいました」
『待った!』
わたしは紬の証言に待ったを掛けた。
ちよ「そもそも、あなたは何しに搬入口にいたんですか?」
『異議あり!』
よみは呆れた顔でわたしを見ながら、異議を申し立てた。
よみ「おいおい、脂望の証言を聞いていなかったのか?」
ちよ「いえ、一応確認です」
よみ「まぁいい。証人、哀れな弁護人の為に話してあげてくれないか?」
紬「えぇ、構いませんよ。私、あの日に届く様に注文したキーボードを取りに、新春さんと2人で搬入口に行ったんです」
『異議あり!』
わたしは紬の発言に異議を申し立てた。
ちよ「紬さん・・・、今の証言は嘘ですね?」
紬「え?」
『異議あり!』
わたしの異議に対し、動揺した紬を前に、よみが異議を申し立てた。
よみ「何を言っている弁護人!脂望太が証言していたではないか!!それに証拠だって用意してあった。彼女のアリバイは完
璧なハズだ!」
『異議あり!』
わたしはよみの発言に異議を申し立てた。
ちよ「それが既に問題なんです!!脂望太が提出した伝票のこの部分を見て下さい!!」
わたしは、伝票の時間を指した。そこには・・・・。
裁判長「これは・・・16:38と書いてありますな?」
よみ「あ・・・・ああああああああああああああああああ!!!」
よみは何かに気が付いたらしく大きなダメージを受けた。
よみ「そ、そういう事・・・か!!」
ちよ「そういう事です!!」
裁判長「どういう事ですか!?」
裁判長は1人話に着いてこれていなかった。
ちよ「紬さん・・・。ラストナンバーの休憩時間って何時頃取りましたっけ・・・?」
紬「・・・ご、午後・・・8時頃です・・・」
裁判長「な、何ですと?」
ちよ「そうなんです!!つまり、琴吹紬が注文したキーボードを取りに行く時間とは4時間以上も差がある!!」
裁判長「あああああああああああああああああ!!これは一体!!」
裁判長も事情を理解したらしく慌てだした。
ちよ「さぁ、答えて下さい!!琴吹紬!!貴女は搬入口で何をやっていたんですか!!」
紬「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
嘘を見破られ、紬は悲鳴を上げた。
紬「じ、実は・・・その・・・。私、あの時・・・脂望さんとは会っていないんです・・・。斉藤さんとラストナンバーの演出を相談してい
まして・・・・」
ちよ「ラストナンバーの演出?」
紬「はい!執事の斉藤さんは演出や裏方作業もこなしてもらっていましたので、その打ち合わせをしていたんです!!」
ちよ「どうして今まで黙っていたんですか!?」
紬「だって・・・、みんなを驚かせたかったんですもの!!」
紬は堂々と宣言した。
よみ「琴吹紬・・・、今の証言は間違いないな?」
紬「はい・・・すみませんでした」
よみ「裁判長!この証人の証言が正しいか、臨時で証人を召喚したい!!」
よみは突然、裁判長に次の証人の緊急手配を依頼した。
よみ「斉藤弦を特別証人として入廷させる事を許可して頂きたい」
ちよ「水原暦・・・?」
わたしはこの時から妙に気になっていた。有罪の為ならどんな手でも使うと言われた水原暦らしくない行動が多かったのだ。
裁判長「解りました。検察側の主張を認めます。係官!斉藤弦に特別証人の手続きを!!」

同日 午後4時25分 斉藤弦の証言

特別証人の手続きが終わり、新春弦が入廷してきた。弦は正に執事と言うのに相応しい感じの風格のオジサンだった。
よみ「それでは証人、名前と職業を・・・」
弦「かしこまりました。ワタクシは斉藤弦と申します。琴吹家で執事をやっております」
よみ「それでは、早速質問をさせて頂く。先程の琴吹紬の証言だが、間違いないだろうか?」
弦「はい、おっしゃる通りで御座います。本日のラストナンバーの後、くす玉を割る予定でおりました」
『待った!』
わたしはすかさず待ったを掛けた。
ちよ「待って下さい!くす玉なんて聞いていませんけど?」
弦「あぁ・・・、それが・・・。事件の後、何処かへ行ってしまわれて行方不明なので御座います」
ちよ「どういう事ですか?」
弦「実は、くす玉は丁度、平沢唯様の目の前に出てくる様にセットしておりましたので・・・」
ちよ「平沢唯の目の前って・・・・死体が落ちてきた場所じゃないですか!!」
とんでもない事になってきた・・・。天井裏のワイヤーの跡がくす玉を結んだ時の傷だったかもしれないという状況になってしまったのだ。
弦「恐らく、犯人の方は私がセットした後、死体とすり替えたのではないかと・・・」
わたしは不自然に感じた。異議はないのに、妙に感じた。そもそも、ラストナンバー直前でそんな余裕あるのだろうか・・・?
裁判長「ふむぅ、なるほど・・・。大体どんな状況だったか、解りました」
弦「いえいえ、お役に立てて光栄でございます。それではワタクシはこれにて失礼を致します」
弦の状況説明と証言が終わり、退廷する時だった・・・。
『待った!』
突然の待ったが掛かり、中野梓が証言台に乱入してきた。
梓「待って下さい!!」
裁判長「どうかしましたか?中野梓さん・・・」
梓「わたし、思いだしました!!あの時、倉庫から出てきた人の事・・・」
よみ「何だと?」
一同は梓の突然の発言に注目した。問題の男の正体が明らかになったというのだ。
裁判長「梓さん、それは重要な証言です!一体、誰なんですかな?」
梓「間違いありません・・・。わたしがあの時見た人は・・・」
法廷内は静まりかえった。誰もが気になる言葉だからだ・・・。
梓「わたしがあの時見た人は・・・、この人です!!斉藤弦さん!!」
梓は弦に指を突きつけ、告発した。
よみ「な・・・なんだとぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」
ちよ「えええええええええええええええええええええええ!?」
裁判長「何ですとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!?」
唯「ど、どうなってるのぉぉぉぉおおおおおおおおお!?」
弦「そ、そんな・・・バカな・・・・」
わーわーわーわーわー
裁判長「静粛に!静粛に!静粛に!静粛にィィィィイイイイイッ!」
騒ぎは収まらず審理は中断された。
当然だ。梓が告発した人物は誰も予想していなかった人だったのだから・・・。
まさか、山中さわ子を殺害したのは、琴吹家の執事の斉藤弦!!裁判はとんでもない方向へ進みながら、明日の審理へ持ち越される事となった。

つづく