東漫裁判
第2話:逆転のラッキースター
9月12日 午前8時57分 美浜法律事務所
わたしは美浜ちよ、10歳弁護士です。
2ヶ月前にデビュー戦を白星で飾り、友人を救いだし、
遂に自分の事務所を持つ事が出来たのだ・・・・が、
あれから2ヶ月経つのに、依頼人はさっぱり来ないのです・・・。
どうしよう・・・今月の家賃・・・。
「あ〜!!やっと帰ってきた!!」
事務所の入り口には見知らぬ・・・、いや・・・何処かで見た事がある
少女が立っていた。
「いい?事務所を開く15分前には出勤するのは常識なんですよ!それに・・・」
少女は偉そうにわたしを注意してきた・・・。だから、この子なんなんですか?
「あの・・・それ以前に・・・あなた誰ですか・・・・?」
「っ!!」
少女はショックで床にひざまづいた。
「うぅ・・・。酷いですよ、ちよちゃん・・・。わたしを忘れるなんて・・・」
少女は目薬で嘘泣きを演出したけど、バレバレである。
「あなた、もしかして迷子なんですか?」
「こ、子供扱いしないでよ!わたしとちよちゃんは歳殆ど変わらないんだから!!」
少女はいきなり怒り出し、わたしの前に顔を乗り上げてきた。
「わたしはお母さんに任命されたの。ここの事務所の副所長としてちよちゃんを支えるようにって!」
「え・・・えぇぇぇぇえええええええええええええええっ!?」
わたしはあまりの事で思わず腰を抜かしてしまった。当然だけどね。
一体、誰なんですか?小学生を法律事務所の副所長なんかに任命した無責任な母親さんは・・・。
「まぁ・・・いっか。忘れちゃったなら仕方ない・・・。わたし、恵那。よろしくね」
「よ、よろしく・・・お願いします・・・」
わたしは、そう言い恵那が差し出した手を借り立ち上がった。
「でも、わたし・・・。2ヶ月前にデビューしたばかりの新米弁護士で依頼もロクに来ないから暇ですよ?」
「勿論、解ってます!だから、わたしの依頼を聞いてくれる?」
「え?恵那ちゃん、何か事件に巻き込まれちゃったんですか!?」
恵那の依頼を心配して身を乗り上げた。
「えっと・・・マヤマヤーが昨日から行方不明になっちゃったの・・・」
「ま・・・まやまや?」
ちょっと恵那ちゃん?ここが何処かお解りですか?
「マヤマヤーは、イリオモテヤマネコの子供なの・・・。知り合いの獣医さんのペットから産まれた子供を貰ったの・・・」
恵那は必死にマヤマヤーとかいう猫を特徴を説明してくれるんだけど・・・。
「あのねぇ・・・ここ、探偵事務所じゃないんだけど・・・」
「もちろん知ってます!法律事務所でしょ、弁護士の・・・」
「だから、そういう問題ごと持ち出されても・・・」
「お母さんが言ったの・・・。どうせ、暇そうだから一緒に探してもらえ・・・って」
暇そう・・・。確かに暇ですよ・・・。まったく、この子の母親は誰なんですか・・・。
「解りました、探します・・・。探しますよ・・・」
わたしは仕方なく折れて、彼女のマヤマヤーとかいう猫を探す羽目になってしまった。
同日 午前9時21分 喫茶店・ルミエール前
という訳で、わたしは恵那ちゃんに連れて来られたのは喫茶店の前・・・。
「この喫茶店の前を通った時、女の人とぶつかって、その時にマヤマヤーを手から落としちゃって・・・」
「そんな事よりも・・・」
わたしは、猫より店内の方が気になった。
何故なら、店の前に警察官が立っていて、厳重なバリケードが組まれていたんですから・・・。
「ここ、何かあったのかな・・・」
「あ!もしかして、お巡りさん達もマヤマヤーを捜索してくれているのかも!!」
「いやぁ・・・さすがにそれは・・・」
それはないと思うよ、恵那ちゃん・・・。たかが猫1匹行方不明になったくらいで警察は動きません・・・。
きっと何か大きな事件があったんでしょう・・・。わたしは近くにいた警官に声を掛ける事にした。
「あの・・・。ここで何かあったんですか?」
「え?あぁ、なんでもないよ。お嬢ちゃんは、お帰り・・・」
「ちぇ、教えてくれませんね・・・」
まぁ、そう簡単には教えてくれないのが普通でしょうね・・・。
「おう、どうした?」
そんな時、店の中から2m以上のコートを着た巨漢が出てきた・・・。
「あ!竹田刑事!!ごくろうさまです!!」
竹田という刑事は、わたし達に近付いてきた。
「おい、お前ら!ここは子供の遊び場じゃないんだ!とっとと帰りな!」
「む!なんですか、その態度は!!」
恵那はむくれていると、竹田刑事はボキ!バキ!と指を鳴らしだした。
「どうしても通りたくば、この俺を倒してから行くんだな!」
やばい、この人強そう・・・。どうしよう・・・・。
「じゃ、諦めようか!」
「え?」
恵那はあっさり諦めた。
「男の人相手で喧嘩して勝てる訳ないし、それにわたし達は事件の弁護人ですらないんだから・・・」
「え?まぁ、そうですけど・・・。気にならないんですか?恵那ちゃん」
恵那は真剣な顔でわたしを見つめてきた。
「ちよちゃん、どうせそのウチニュースとかになるし、無理に関わるべきじゃない。それにマヤマヤーが気になるしね」
あ、後者が本音ですね・・・。
「解りました、そのマヤマヤーが行った方角に行きましょう」
わたしがそう言うと、「こっちの方角」と恵那は路地裏を指先きたので、2人で路地裏に進んでいった。
同日 午前9時28分 ルミエール路地裏
路地裏に入ると、喫茶店の裏口と生ゴミの入ったポリバケツが置いてあった。正しく、路地裏・・・。
「ん?なんだろ、これ・・・」
恵那はポリバケツの近くに落ちていた携帯電話を拾い上げた。
「誰の携帯電話でしょうね?それ・・・」
わたしは、不意に携帯電話を開いてみると・・・・。写真撮影画面になっていた。
「きゃぁ!これって女の子の着替え写真!?ちよちゃん?あなたって人は・・・・」
恵那はわたしを睨んできた・・・。って、何でこっち見る!こっちみんな!
「とりあえず、拾っておきましょう・・・」
わたしはそう言い、ポケットにそっと忍ばせた。
「この先は川だし、他に目ぼしい場所はポリバケツの中だけですよね」
わたしはポリバケツを開けると・・・・。
「きゃぁぁあああああああああああっ!!!」
恵那は叫び声を上げた。当然だ・・・。
そこにはぐったりしたイリオモテヤマネコの子供がいたのだから・・・。
「マヤマヤー!!しっかりしてぇぇぇぇええええっ!!」
恵那は完全に動転していた。
「恵那ちゃん、落ち着いて。とりあえず、行きつけの病院に連れてきましょう!」
わたしは動揺した恵那の肩に手をやり、落ち着かせようとするが、恵那はおろおろするばかりでどうしようもない状態だった。
「あ、そうだ。そのマヤマヤーをくれた人獣医さんですよね?」
「え?う、うん・・・」
恵那は少しだけ正気を取り戻しだした。
「だったら、その人の病院に連れて行きましょう!場所は解りますか?」
「うん・・・。さ、榊動物病院・・・」
「榊動物病院ですね!じゃぁ早速・・・・ん?榊?」
わたしは昔の友人に似てる名に心当たりがあった。
「それじゃ、榊動物病院に行きましょう!」
「う、うん・・・。・・・あれ?」
恵那はポリバケツの中に不審物を見る目で、見つめた。
「ちよちゃん・・・。メニューが捨ててあるよ」
「メニュー?」
わたしは、恵那ちゃんが見つけたメニューを見た。
「これ、まだ新品ですよね?何で、捨ててあるんだろう・・・」
「何かの手がかりになるかもしれないね。拾っておきましょう・・・」
恵那ちゃんはわたしのかばんに指紋が付かないように袋に入れて、しまいこんだ。
いいのかなぁ・・・。事件の証拠品だったら、まずい気が・・・。
「とにかく、このままマヤマヤーをほっておけない・・・。連れて行こう!」
同日 午前10時18分 榊動物病院
わたし達はマヤマヤーを連れて、榊動物病院に来た。
「やぁ、待たせてしまったね。恵那ちゃん・・・」
院長室から、榊獣医というロングヘアーの背の高い白衣の女性が現れた。
「あ、榊さん!?」
「え?あ、ちよちゃん・・・か?」
「ん?先生とちよちゃん知り合いなの?」
わたしと榊さんは恵那ちゃんに高校時代の話をした。
わたし達が同級生で仲がよかった事、その他もろもろ・・・・。
「へぇ、同級生だったんだ・・・。本当に飛び級したんだね、ちよちゃん」
「ま、まぁ・・・昔話はそのくらいにして本題に移ろう・・・」
「あ、そうだ。マヤマヤー・・・」
恵那は深刻そうな顔で榊さんを見つめた。
「とりあえず、マヤマヤーは無事だ。2〜3日ウチで入院してもらうがね・・・」
「よかったぁ・・・」
恵那はほっと肩を撫で下ろした・・・。
「よかったですね、恵那ちゃん」
「ただ、大きな問題が発生した・・・」
「え?」
榊は真剣な目でわたし達を見つめた。
どうやら、マヤマヤーが倒れた原因が相当まずかったらしい・・・。
「マヤマヤーは特殊な毒に侵されてしまっている。解毒剤はあるから、2〜3日の入院で何とかはなるのだが・・・」
「ど、毒!?」
恵那は驚いた表情に冷や汗まみれになった。「猫に毒なんて盛る奴がいるなんて」と思い。
「確か、マヤマヤーはルミエールの路地裏で発見したらしいな・・・」
「もしかして・・・?」
恵那は「ルミエール内の事件と関係しているのでは?」と尋ねるが、榊は極秘情報なので言えないと、教えてくれなかった。
「榊さぁ〜ん!!お待たせしましたぁ〜!」
そこに、KYなおかっぱ頭に赤いメガネと白衣の女性が入ってきた。
「すまない、急に呼び出して・・・」
「いいんですよぉ!榊さんのお呼び立てなら、地の果てでも行きますよ〜!」
白衣の女性はニヤニヤしながら、榊と話している。
「あ!お久し振りです!!かおりんさん!!」
恵那はかおりんとかいう女性に親しそうに話し掛けた。
「お?恵那ちゃんじゃないの!今日はお母さんは一緒じゃないのね」
「うん。今日から、この弁護士さんの秘書になったの!」
恵那はかおりんに親しそうにわたしを紹介しようとした。どうやら、例の「お母さん」の友人らしい・・・。
それにしても・・・かおりん?何処かで聞いた様な・・・。
「あ、君がちよちゃんだね。あたしはかおりん、鑑識課の巡査部長だよ」
「か、鑑識?」
「やっぱり、アイツが言った通り、この間の事件であのテスト用紙は役に立ったみたいね」
「テスト用紙・・・?・・・あ!!」
『かおりんに筆跡と血液の鑑定をしてもらってたんや』
『ここに、鑑識課のかおりん巡査部長のサインもあるで!』
わたしはこの間の法廷で、大阪さんが口にした名前であると思いだした。
「あなたがあのかおりん巡査部長さんですか!!確か、前の法廷で大阪さん・・・いや、春日歩から聞いてます!」
わたし達が親しく世間話をしている時に、榊さんが間に入ってきた。
「巡査部長、世間話より私の用事が終わっていない・・・」
「あわわわわわわっ!!ごめんなさい!!」
かおりんは慌てて榊に謝罪した。
どうやら身分は上だが、かおりんにとって榊さんは憧れの女性らしい・・・。
「かおりん、例の極秘情報があるんだが、2人きりで院長室に来てくれ・・・」
「はぁ〜い!!何処までも2人きりでぇ〜!!」
怪しい表現です・・・が、榊さんはかおりんと2人きりで院長室に入り、鍵を掛けてしまった。
相当、極秘な内容らしい・・・。
「恵那ちゃん、とりあえず無事みたいだし、事務所に戻りましょうか」
「うん!」
どうにも関わってはいけなそうと思ったので、一時わたしは恵那と事務所に帰ることにした。
同日 午前11時47分 美浜法律事務所
「へぇ、そうなんや・・・」
事務所に戻ってきたわたしと恵那は、事務所から話し声が聞こえるのに気付いた。
空き巣ですか?金目なものはありませんよ、空き巣さ〜ん。
「お、やっと帰ってきたな〜」
「お、大阪さん!?」
事務所には何故か大阪が見たことない制服の女子高生達とおしゃべりをしていたのだ。
「な、な、何で・・・?」
「ちよちゃん、事務所を出る時は鍵をちゃんと掛けないとあかんで」
「・・・・あ!」
わたしは急いで恵那と出た事で事務所の施錠を忘れたのに気がついた。
「まぁ、ええわ。それより、恵那。マヤマヤーは見つかったんかな?」
大阪はさも知り合いかのように恵那に話し掛けた。
「うん。ちよちゃんが付き合ってくれたから、見つかったよ。今は榊動物病院に預けてあるから」
「そっか。榊ちゃんの処なら安心やな」
「それより、お母さんは何があったの?」
ん?お母さん?・・・・え?ええ?
「えぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええっ!?」
わたしはあまりの事に奇声を挙げてしまった。そりゃ、そうである・・・。
「お、大阪さんが・・・・お、お母さん?で、でも・・・」
「・・・あれ?ちよちゃんに自己紹介してなかったっけ?」
これは、一体何の冗談ですか?
「初めまして、わたし春日恵那。春日歩の娘です」
「ええええええええええええええええええええええええええっ!?」
じょ、冗談じゃない?こんな事ありえない・・・・。
「あ、あの・・・でも・・・大阪さん・・・いや、春日歩って・・・いくつでしたっけ?」
「あたしは、今年で20歳やよ。恵那は確か、10歳やっけ?」
えっと・・・って事は・・・恵那は大阪が10歳の時に生まれた子供でって、10歳で出産って・・・そんなバカな・・・。
「ま、ええやん!」
大阪はわたしの肩に手を乗せた。
「それよりも、せっかくの依頼人を待たせたあかんよ」
「いらいにん?」
大阪は見覚えのない女子高生を指した。
「あの・・・あなたたちは・・・・?」
「えっと、あなたがお姉ちゃんが言ってた弁護士さんですね?美浜ちよさんですよね?」
赤い髪の一番小柄な少女が声を掛けてきた。
「え、えぇ・・・。そうですが、何かの依頼ですか?」
「お姉ちゃんを・・・こなたお姉ちゃんを助けて下さい!!」
こなたお姉ちゃん?誰です?その方は・・・。
「こなたはあたし達の悪友というか、友達なんだけど・・・」
「喫茶店・ルミエールで起こった殺人事件の容疑を掛けられて捕まっちゃったんです!」
薄紫の髪の双子が小柄な少女の前に出てきて説明してくれた。
それにしても、聞いた名前の喫茶店ですねぇ・・・って・・・。
「恵那ちゃん、ルミエールって何処かで聞いた事ないですか?」
「ち、ちよちゃん!!マヤマヤーを見つけた場所だよ!」
いやはや、とんでもない因果ですね・・・。まさか、あの喫茶店内部の事件の依頼人が来るとは・・・。
依頼にやってきた5人の女子高生は・・・。
被告人の従妹にあたる小早川ゆたかとその親友の岩崎みどり。
それと被告人の親友3人、柊かがみ、柊つかさ、高良みゆき。
ゆたかの姉であり警察官の成実ゆいの紹介で、弁護の依頼にやってきたという・・・。
「どうかな?ちよちゃん。引き受けてみたらどうや?」
「そうですね。解りました。弁護を引き受けましょう・・・」
「あ、ありがとうございます!!裁判は明日なので、よろしくお願いします!!」
明日って、随分と急ですねぇ・・・。
「あ、そや。ちよちゃん。コレ依頼状・・・。先に会った時に受け取ったんや。持ってるとええで」
「ありがとうございます」
わたしは大阪から泉こなた直筆の依頼状を法廷記録に挟んだ。
「じゃぁ、恵那ちゃん。行きましょう。時間も今日1日しかないんですから・・・」
「美浜法律事務所設立後、最初の依頼だね。ちよちゃん!」
わたしは、大阪と依頼人の友人さん達と別れ、ルミエールを目指した。
同日 午後2時6分 喫茶店・ルミエール
さぁて、これで中には入れる筈です!何か手掛かりを見つけないと、泉こなたは有罪です・・・。
「あ、君達また来たの?」
あ、この人最初に会った見張りの警官だ・・・。
「あの、泉こなたさんの弁護を担当する事になったんですけど・・・」
警官は依頼人の名前を聞いた途端慌てだした。
「あ、あ、あのな、お嬢ちゃん・・・。何処でそんな名前を知ったんだ?」
「弁護の依頼を受けたからです。これ、依頼状です」
「いや、依頼状があっても流石に・・・」
「おう、どうした?」
竹田刑事が中から出てきた。
「あ、刑事さん!依頼状です!泉こなたの弁護を担当する事になった者です!」
「い、泉こなただと?お前・・・一体・・・?」
竹田は不審者を見る目でわたし達を見つめてきた。不審者じゃないですよ。
「わたしですか?わたしは・・・美浜ちよですけど・・・」
「み、美浜ちよ!?って事は・・・コイの弟子の!?」
「はい!小岩井先生の弟子です!」
どうやら、この刑事さん。小岩井さん知り合いらしいです。
「じゃぁ、そっちの子はもしかして、春日歩の・・・?」
「はい!娘の恵那です!」
この人、大阪のことも知ってるみたいですね・・・。
「俺は、この現場の初動捜査責任者の竹田隆。みんなからはジャンボと呼ばれてるぜ!」
「ジャンボさん・・・」
「アンタの師匠・小岩井とは昔からの友人だ!」
「そうだったんですか・・・。じゃぁ、春日歩とは?」
「あぁ、警察関係者で春日歩を知らない奴はいないぜ!」
わたしは、ジャンボさんが小岩井さんの親友であることより、
春日歩が警察関係者で知らない者はいないと言われる大物と知った事に何より驚いた。
「ただ、アンタには気の毒だが、泉こなたの有罪は間違いねぇな」
ジャンボは気まずそうに言いだした。
「ど、どういう事ですか?」
「証拠も証言も泉こなたに不利なモノが揃ってるからな。それに・・・」
「それに・・・?」
「検察局は、水原暦検事を本件の担当検事として任命したんだ・・・」
「水原暦!!」
水原暦・・・。わたしはその名をよく知っている。
17歳という若さで検事になって3年間1度も負けた事がない天才検事だ。
しかし、その陰では証拠の隠滅、証言の操作、司法取引など、黒いうわさが立たない。
凶悪な鬼の様な検事。まさか、こんなところで会うなんて・・・。
「水原検事が相手とは運がなかったな。いくら小岩井と春日歩の弟子でも相手が悪過ぎたぜ」
「そんなに凄い人なんですか・・・?」
恵那は興味本位でジャンボに訪ねた。
「あぁ、そうだ。3年間勝てなかった裁判はたったの1回だけだったからな・・・」
「・・・・え?勝てなかった?」
「3年前の事件で、水原検事は1度だけ負けはしなかったが、勝てなかった裁判記録が残っている・・・」
「あの、ジャンボさん・・・」
わたしは、真剣な表情でジャンボを見つめた。
「どうした?そんな怖い顔して・・・」
「その裁判・・・誰が相手だったんですか?」
「あぁ、あれは名勝負だからなぁ・・・。はっきり覚えてるよ。春日歩だ・・・」
「お、大阪さん!?」
「警察の分類ナンバーでは、”WX69号事件”って言われてる事件だ」
「だ、WX69号事件!?」
それは、裁判長が大阪さんを見た時に出した事件の名前だった・・・。
それにしても、大阪が水原検事相手に互角にやりあった弁護士だったなんて・・・。
有名になって当然です・・・。
「まぁ、いいだろう。中に入っていいぜ。この店の店長さんは奥の控え室にいるから、好きなだけ話を聞くといいぜ」
「ありがとうございます!ジャンボさん!じゃぁ、いくよ。ちよちゃん!」
わたし達はジャンボさんの許可が下り、中への調査をする事になった。
同日 午後2時22分 ルミエール店内
ルミエール店内に入ったわたし達は、KEEP OUTのテープの貼られたテーブルを発見した。
そこには、死体をかたどった白いテープに、倒れたコーヒーカップが放置された状態になっていた。
「わぁ、これが本物の事件現場か・・・。わたし、初めて見た・・・」
「何度も拝めるもんじゃないと思いますけどね・・・」
憧れ(?)の事件現場に近付こうとするわたし達の後ろから、「ちょっと待った」の声がかかり、
後ろを振り向くと・・・。
「あ〜、やっぱり・・・ここに来ちゃった・・・か」
鑑識課巡査部長であり、鑑識チームリーダーのかおりんが後ろに立っていた。
「あ、かおりんさん!!」
「一応、聞くけど・・・。ちよちゃんは、泉こなたさんの弁護士でいいのよね?」
かおりんは榊動物病院に居た時と違って落ち着いた雰囲気を出しながら、話し掛けた。
「はい!ジャンボ刑事には既に依頼状を渡してあります!」
「そっか・・・。・・・で、事件現場の調査をするのは初めてね?」
「は、はい!」
かおりんは、白い手袋を2着取り出し、わたし達に差し出した。
「事件現場に余計な指紋を付けたらマズいからね。2人にはこれを装着してもらいます」
「あ、は、はい・・・」
かおりんもやっぱりプロなんだなぁ・・・。仕事だとこんなに真剣な顔をするんだぁ・・・。
「まず、被害者だけど。ここのお客さんで、名前は泉宗二郎。42歳」
「泉?」
被告人と同じ苗字?もしかして・・・。
「そう。被告人、泉こなたさんのお父さんよ・・・」
「被害者の人と親子なんだ・・・」
「こなたさんのお母さん、泉かなたは彼女が幼い頃に亡くなっていて、父と娘の2人で暮らしていたそうよ」
そんな家族内で殺人か・・・。相当、マズい事があったんだろうなぁ・・・。
「それと、これは解剖記録ね。毒はエレメンタルオキシドロイドによる中毒死って処ね」
「な、何ですか?聞いたことない毒ですね・・」
毒殺と言えば、青酸カリがよく聞くけど、エレメンタルオキシロイドなんて初耳だ。
「まぁ、知らなくて当然だと思うね。自然界には存在しない特殊化合物で、闇ルートで売買されていた麻薬で、既に1年前に押収されているから・・・」
「や、闇ルート・・・」
絶対に関わりたくない・・・。
「それでね、この毒は体内に遅効性で体内に入ってすぐ効果が現れる訳ではなく、早くて10分は何の異常も起こらないの。それからね・・・」
「あぁ、専門的な部分はいいです!!」
何か怖いので、わたしは強引に話を中断させた。
「つまり、その毒がコーヒーの中に入っていて、それを飲んで死んだって処ですね?かおりんさん」
恵那は自分なりにまとめた話をかおりんに訪ねた。すると、
「う〜ん・・・それ、ちょっと微妙なんだよね・・・」
かおりんは気まずそうに首を傾げた。
「実はね、コーヒーの中自体には毒が入ってないんのよ・・・」
「え・・・」
「カップのココに飲んだ跡が残ってるでしょ?」
かおりんはカップのふちの汚れを指した。
「この部分にだけ毒の検出がされてるの・・・」
「何でフチなんだろう・・・。直接コーヒーの中に入れても左程変わらないだろうに・・・。ねぇ、かおりんさん」
恵那は専門家のかおりん巡査部長に話を振った。
「あ、あたしに振らないでよ!あたしだって、この疑問に悩まされてるんだから・・・」
「なんだ・・・、専門家って言う程凄い人じゃないんですね・・・」
わたしは呆れてつい本音を言ってしまった。
「あぁ、そういう事言うかなぁ?折角、大阪の子達だからって、いいモノあげようと思ったのに・・・」
かおりんはそう言いすねた。って、それ以前にわたしは大阪さんの子供じゃありません。
「あ、ごめんなさい!この子、まだ青二才で大人に聞く口のきき方知らないんですよ」
恵那はわたしの前に出てきて、かおりんをなだめた。って、いうか・・・誰が青二才ですか?
「やれやれ、恵那ちゃんに免じて許してあげるかな。っと」
「それで、何ですか?いいものって」
かおりんは不敵な微笑みを浮かべながら、鞄の中を探り出し、白い粉が入った瓶を取り出した。
「♪ぱぱぱぱ〜ん!あ〜る〜み〜こ〜!」
あなたは何処かの青い耳なしのネコ型ロボットですか?
「あるみこ?何ですか、それ?」
わたしは聞いた事のない粉を見せられ、つい本音を出してしまった。
「アルミ粉よ。これで、指紋を浮き出させる事が出来るの。指紋検索は科学捜査の基本だよ基本!」
「うぅ・・・・」
かおりんに仕返しされた・・・。それに、かおりんの目が段々輝いてきてます。危険だ。
「そうだなぁ、このコーヒーカップの指紋取ってみようか」
かおりんは問題のコーヒーカップを全面に持ってきた。
「取っ手と更に、指の油染みが薄らと残ってるでしょ?」
かおりんはカップの指の跡を指した。
「この指紋を取って、誰が触ったかを調べるんですね?」
「そういう事!さぁ、早速やってみようか!」
かおりんは中の粉をカップの取っ手に付けた。
「まずはこんな感じで粉を付けます・・・そして」
かおりんが息を吹きかけると、指紋の跡が浮かび上がってきた。
「あとは、この指紋とこっちの関係者の指紋データを見比べれば・・・」
そう言うと、かおりんは鞄の中の関係者指紋ファイルを取り出した。
「どうかな?泉宗二郎の指紋と一致したでしょ!」
「そ、そうですね・・・」
これは調べるまでもないと思うけどなぁ・・・。
「じゃぁ、今度はちよちゃんの番!今度はこっちの皿の部分の指紋を検出してみて!」
「は、はい・・・」
わたしはかおりんからアルミ粉を受け取り、同じ手順で指紋を浮き出させた。
「あとは、こっちのデータと・・・げっ!」
浮かび上がった指紋は見事に、泉こなたの指紋と一致してしまったのだ・・・。
「これで、はっきり証明されたよね。どうどう?科学って凄いでしょ〜!」
かおりんは活き活きと元気いっぱいになった。
「かおりんさん、なんか肌がツヤツヤしてきましたね」
「お陰でわたしの肌はカサカサになってきましたよ・・・」
ともちゃんの時といい、何でこうも不利な証拠が出てくるんだろう・・・。
「まぁ、とりあえず、今の処このくらいかなぁ・・・」
「あ!そうだ!関係者と話がしたいんですけど・・・」
恵那は思い立ってかおりんに訪ねた。
「だったら、奥の事務室にルミエールの店長の小此木基弘さんがいるから、話聞いてみたら?」
かおりんは店の上面図を渡してくれ、説明してくれた。
「じゃぁ、早速行ってみよう、ちよちゃん!」
「あたしは、まだ調査があるから、好きなだけ聞いてくるといいよ」
そう言うと、かおりんは鑑識チームの所へ行ってしまった。
同日 午後3時36分 ルミエール・営業事務室
わたし達はかおりんから預かった見取り図を頼りに、営業事務室に入った。
営業事務所はパソコンや金庫等の必要十分のものだけが置いてある3畳の小さな部屋だ。
「失礼しま〜す・・・」
「ん?あなた方は?」
営業事務所の奥にはオールバックの後ろ1つ縛りの男の人がいた。
「わたし達、泉こなたさんの弁護をする事になった者です。こちらが、担当の美浜ちよ先生です!」
恵那はわたしを男の人に紹介した。でも、先生は恥ずかしいからちょっと辞めてほしいなぁ・・・。
「お!そうでしたか、泉クンの・・・。私はルミエール店長の小此木と申します・・・。よろしくお願いします」
小此木は自己紹介をし、名刺交換をしてきた。
「弁護士さん、泉クンは殺人を犯すような子じゃありません・・・。まして、あのお父さんを殺害するなどと・・・」
小此木はいきなりこなたを庇いだてするような発言を言いだした。
「私、盗み見という訳ではありませんが、泉クンは親しそうに話している様に見えたのです」
「親しそう?どういう事ですか?」
「当店はコスプレ喫茶なのですが、泉クンはノリノリでお父さんに披露しておりました。あの親子内で殺人とは、考えにくいのです」
「そうなんですか・・・」
「ただ、被害者の方に問題のコーヒーを淹れて、運んだのは彼女自身なんですよ・・・」
「という事は・・・、被害者のコーヒーに近づけたのは・・・こなたさんだけ・・・?」
「はい。私はその時、この部屋で事務の仕事をしておりましたので・・・」
「でも、事務の仕事をしていたのなら、事件に気付かないんじゃないですか?」
恵那は唐突に小此木に質問してみた。確かに恵那の言う通りだ。ここに居たのなら、事件の目撃が出来る筈が・・・。
すると、小此木は立ち上がりパソコンの後ろの窓を指した。
「こちらの窓をご覧下さい」
「え?」
何と、パソコンの裏の窓から事件現場がしっかり覗けるようになっているのだ。
「万が一、ウエイトレス1人で厳しい際に私がいつでも援護出来るよう、しっかり見れる様になっているのです」
「という事は、小此木さんは嘘を付いていない・・・か。参ったなぁ・・・」
わたしは勝ち目の見えてこない展開にがっくりと首を傾げて、部屋を出た。
同日 午後4時56分 ルミエール店内
わたしはしょんぼりとした顔で店内に戻ってくると、期待した眼差しでかおりんが見つめてきた。
「どうだった?」
かおりんはいい返事を期待して話掛けてきた。
「はぁ〜・・・参りましたよ。今の現状じゃぁ、こなたさん以外に犯行が可能だった人が思い当たらないです・・・はぁ・・・」
「えっと、気を落とさないで!大阪なんて、もっと酷い状況から逆転した事あるんだし・・・」
かおりんは必死でわたしを慰めてくれた。
「他に手がかりになりそうな関係者がいるといいんですけど・・・」
「う〜ん・・・。あたしも立場上、小此木さん以外の目撃者を紹介出来ないし・・・」
「情報垂れ流してくれないんですか?かおりん巡査部長」
恵那は猫なで声でかおりんに言い寄るが、かおりんは動じない。立場上仕方のない事だから・・・。
「そういえば、問題の依頼人には会ってきたの?」
「あ!!」
しまった・・・。そういえば、まだ泉こなたがどんな人かすら知らない・・・。
ただ、彼女の友達から依頼状を受け取っただけだったのを思い出した。
「早く行かないと、もうすぐ留置所の面会時間が終わっちゃうよ」
「す、すみません!じゃぁ、わたし急ぎで行ってきます。
わたしはそう言い、全力疾走で刑務所を目指した。
同日 午後5時26分 留置所・面会室
しかし、結局。面会時間に間に合わず、泉こなたさんに会う事が出来ないまま、明日の法廷を迎える事になってしまった。
「ま、いいじゃない!ちよちゃん。マヤマヤー見つかったし!!」
「肝心の殺人事件が殆ど手つかずなんですけどね・・・あはははは・・・」
わたしはもうどうしようもない状態に失笑した。
大丈夫かなぁ・・・明日の法廷・・・。
つづく
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