第2話:逆転のラッキースター 最終日・法廷・前半
9月14日 午前9時36分 地方裁判所 被告人第4控え室

わたしは緊張してあまり眠れずいつもより10分くらい早く到着してしまった。
「おはよ!ちよちゃん!!昨日はよく眠れた?」
背後から、恵那が話掛けてきた。子供って元気でいいですよねぇ・・・。
「はい、午前2時には布団に入りましたから、大丈夫ですよ」
「じゃあ、何時に起きたの?」
「午前2時15分」
「15分しか寝てないじゃない!!ちゃんと睡眠取らないと駄目だよ!昨日の疲れとかあるんだし・・・」
恵那の説教が始まった。この子真面目なんですよねぇ・・・。
「あ、弁護士さんだ!おはよう!」
今日は早めに来た、こなたが係官に連れられている。一緒にいるのは柊姉妹・・・か?
「いやぁ、今日は久し振りに早く起きれたよ〜!」
「何であたしが独房の中まで行って起こしに行かなきゃいけないのよ・・・」
かがみは半泣き状態で激怒していた。そりゃぁ、何の罪もないのに独房なんて入りたくはないですよね。
「あの弁護士さん・・・。今日は昨日と違って元気いいね?」
こなたは気軽に話しかけてきた。
「えぇ!今日は真犯人と直接対決ですから・・・。それともう1つの作戦もあるし・・・」
「やっぱり、店長なんだ・・・」
こなたは小此木を信用していただけに、ショックは隠せなかった。
「やほ〜!こなたちゃん!」
「あ、ゆい姉さん!それに、ゆーちゃんも!!」
ゆいとゆたかが控え室に入ってきた。
「今日、公休だったから、来ちゃったよ!弁護士さんに今日の法廷を傍聴して欲しいって言われてね!」
「弁護士さんが?」
こなたは不思議そうな顔をした。何でゆいを傍聴人に招待したのだろうかと・・・。
「ゆいさん、こなたさん!今日はわたしに任せて下さい!絶対に真犯人を突き止めてみせます!」
「お!いいねぇ、その自信・・・流石はちよちゃんやわ・・・」
大阪が背後から気配を消して現れた。
「お、大阪さん!今日は助手席に来てくれるんですね?」
「助手席は恵那で充分やろ。あたしは、かおりんからの預かりものを届けに来ただけや」
「かおりんさんから?」
大阪はビニール袋に入ったおしぼりを取り出した。
「おしぼりですか?」
「え?何?おしぼり?」
控え室のみんなが大阪に注目した。
「問題はおしぼりのこの青白いシミやな・・・」
大阪は、おしぼりのシミを見せた。確かに青白いシミだ・・・。ん?青白いシミ?
「もしかして、これって・・・」
「毒薬の痕跡やな・・・。被害者の席にあったヤツや。かおりんが気を利かせて内緒で調べてたらしいで・・・」
わたしは大事におしぼりを法廷記録にファイルした。
「でも、毒の痕跡が残ったおしぼりなんて、何の役に立つのよ?」
かがみが不思議に思い尋ねた。
「そうだよね〜・・・。だって、被害者はコーヒーを飲んで死んだから、手掴みで口に入れてないハズだよね?」
つかさも同じ疑問を持ったようだ。
「いいえ、これは今のわたしには最強の証拠ですよ・・・」
わたしは軽い笑みを浮かべた。
「まぁまぁ、つかさもかがみも、ここは弁護士さんに任せてみようよ!」
こなたは2人を静めた。その姿を見たわたしは大阪に話し掛けた。
「大阪さん。こなたさんって、意外と冷静な人なんですね・・・。この事件で一番自分が混乱してて、真相知りたいだろうに・・・」
「それは違うよ、ちよちゃん。今日のちよちゃんが自信を持って法廷に臨んだから・・・。彼女も安心しきっている・・・そんなところやね」
と、大阪は軽くまとめた。確かに大阪の言う通りである。弁護人がオドオドしていたら、被告人は落ち着かないハズ・・・。
「弁護人、被告人。そろそろ開廷時間です。法廷へお入り下さい」
わたしとこなたと恵那は係官に呼ばれ、法廷に入った。

9月14日 午前10時 地方裁判所 第7法廷

ざわざわざわ・・・・カン!
裁判長は木槌を叩き傍聴人を静粛させた。
「ただいまより、被告人・泉こなたの法廷を開廷致します」
「弁護側、準備完了しています」
「検察側・・・もとより・・・」
今回の裁判は前日と同様で、弁護席にわたしと恵那、検事席によみが立った。
「それでは、水原検事。冒頭弁論をお願いします」
「承知した」
よみは資料を手に取り説明を始める。
「昨日の法廷で、弁護側より意外な可能性が提示された。
 事件が発生してから盗撮犯が通報しに行く間の空白の時間に1人だけで自由に動けた小此木もとひろに現場操作の可能性があった事だ。
 早速、小此木もとひろに入廷して頂き、彼の証言を聞こう・・・」
「ふむぅ、解りました。係官、小此木もとひろを証人台へ」

9月14日 午前10時7分 小此木もとひろの証言

小此木は法廷係官に連れられ、証人台に立った。
「証人、名前と職業を・・・」
「小此木もとひろです。職業は喫茶店を経営しております」
「小此木さん、貴方は弁護側から告発を受けている身です。証言は慎重にお願いします」
裁判長は小此木に念の為に注意を促した。
「それでは、まず。弁護側の告発、現場操作の可能性に対して反論をお願いします」
裁判長の指示の元、小此木は反論を始める事になった。
「ちよちゃん!こいつが犯人なんだよね?だったら、こいつを崩して片付けちゃおう!」
「・・・そう上手くは行かないと思いますけどね・・・」
「え?」
恵那が小此木を犯人と決め付けようとした時、わたしは冷静に半否定した。それには事情があったからだ・・・。
「小此木さん、被害者が死亡し、泉こなたが気絶し、盗撮犯の白石みのるが通報に出掛けた間。あなたには現場操作が可能だった可能性を如何だと思いますか?」
わたしは小此木に質問をしてみた。
「とんだ誤解ですね!私は通報を頼んだお客様と同じく冷静さを失っていたのです。そんな余裕はありませんでした」
小此木はそう反論した。確かに、突然殺人が起これば冷静ではいられなくなるだろう・・・。
「如何かな?弁護人・・・。君ももし目の前で突然、死体を見かけたら冷静でいられると思うのか?」
「そうですね・・・。多分、こなたさんと同じく気絶しちゃうかもしれないですね・・・」
「ふっ、意外と物解りがいいじゃないか・・・」
よみは余裕の表情で両腕を広げた。
「しかし、突然ではなかったとしたら?」
「ど、どういう事ですか?」
裁判長はわたしの発言に首を傾げた。
「そうですね、小此木さんは最初から泉そうじろうが死ぬのを解っていたなら、どうでしょう?」
『異議あり!』
わたしの奇天烈な発言によみは異議を申し立て、机を強く叩いた。
「弁護人!何のつもりだ?その発言は問題があるぞ!!この証人が最初から事件があるのを知っていただと?」
よみは真っ直ぐわたしを睨みつけてきた。
「あくまで可能性の話をしているだけですよ・・・。毒も遅効性ですし、突然死ぬ事はありませんしね・・・」
わたしは腕を組み余裕の表情でよみを見た。
「べ、弁護士さん?あなたは・・・私を現場操作等の罪で告発した筈ですよね?」
「そ、そうだぞ!その発言は、問題がある!」
よみと小此木は冷静さを失いだした。
「簡単な事ですよ、小此木さん。貴方が被害者に毒を盛ったなら、最初から死ぬ事が解っている事になりますよね?」
「なっ!!」
小此木は冷や汗をたっぷり掻き落ち着きを失くし始めた。
『異議あり!』
「弁護人、貴様ぁ・・・。この証人を殺人罪で告発しようと言うのかっ!!」
よみは大声で怒鳴り付け、わたしを強烈な目で睨みつけた。
「解ってるじゃないですか・・・」
『異議あり!』
よみは異議を申し立てた。
「ふ、ふざけるな!!キサマ・・・、この証人を殺人罪で告発するなら、毒薬の入手方法は何だ?」
『異議あり!』
わたしはよみの発言に異議を申し立てた。
「では、逆に質問してもいいですか?水原検事」
「な、何だ?」
「あなた方は泉こなたの身体検査で毒薬が見つかったから逮捕しましたよね?」
「それがどうした?」
「それでは、こちらから聞きましょうか?泉こなたが毒薬を入手した方法を証拠で提出して下さい!!」
「ぐ・・・ぐああああああああああああああああっ!!」
よみはそこまで調査をしていなかった為、反論出来ず精神的ダメージを負った。
「う・・・ぐ・・・。だ、だったら、美浜ちよ!キサマは立証出来るのか!?この証人、小此木もとひろが毒薬を入手した方法だ!!」
よみは完全に冷静さを失ってい、わたしに怒鳴りつけてきた。
「もちろんです・・・!」
『異議あり!』
よみは異議を申し立てた。
「ば、バカな!!出来る訳がない!!」
「小此木さん、この小瓶に見覚えはありますか?」
わたしは金庫で大量に発見した薬物のウチ、エレメンタルオキシロイドの方を見せた。
「なっ!え・・・えっと・・・み、み、み、見覚えありませんよ?」
小此木は脂汗びっしょり掻き、完全に動揺していて、更に目をそむけて答えた。
「ほ、ほら見ろ!証人の身に覚えはないんだよ!!」
よみも小此木の意見に便乗した。
『異議あり!』
わたしは動揺した2人の姿に異議を申し立てた。
「今の動揺は関心しませんね。小此木さん・・・」
「ど、どういう事です?」
「この小瓶は、あなたの金庫から大量に発見されているんですよ?」
「な、なんですと!?ば、バカな・・・」
小此木は金庫が破られると思っていなかったらしく、動揺を隠せない。
『異議あり!』
そこによみが異議を申し立てた。
「ふっ!バカも休み休み言いたまえ、君が金庫を開けられる訳がないだろう・・・」
よみは冷静さを取り戻した。
「君が小此木もとひろの金庫を開けたというなら、証拠を提出したまえ!」
よみは強気な反論をしてきた。
「ど、どうするの!?ちよちゃん・・・。金庫開けた時、手袋しちゃったから、指紋なんてないよ!!」
どうやら、追いつめたつもりが、こっちが逆に追いつめられる側になってしまった様だ。
「それとも、君は彼の金庫の暗証番号を覚えているのかな?ククク・・・」
暗証番号?・・・そうだ、その手があったじゃないか!
『異議あり!』
「だったら、わたしが小此木もとひろの金庫の番号を間違えずに言ってみせましょうか?」
わたしは強気な態度でふんずり返った。
「フッ、やれるものなら、やってみろ・・・」
「では・・・小此木さん・・・」
「な、何でしょう?」
わたしは小此木の目を真っ直ぐ見つめた。
「貴方の金庫の暗証番号は・・・”1024”ですね?」
「ぐぉっ!!」
小此木は盛大に怯え始めた。
「しょ、証人、どうした?あ、暗証番号は外れている・・・そうだろう?」
よみは小此木の態度を見て焦りだした。
「う・・・ぐっ・・・。そ、そ、そうですとも・・・。その番号で開けられる証拠などありませんから!!ねぇ、検事さん?」
「ふっふっふっ、そういう事だ。弁護人・・・」
小此木は動揺を隠しきれないが、何も知らないよみは余裕の表情を見せた。罠にハマってしまったと知らず。
「合っているか、間違っているかは、今現場にいる警察官に頼んでやらせればいい・・・。・・・そうですね?小此木さん・・・」
「っ!!」
小此木は返す言葉を失いながら、よみに助け舟を求める目で見た。
「ふっ、いいだろう。今から、竹田刑事に連絡を取ってみせようか・・・」
よみはそういうと、法廷係官に指示を出し、ジャンボに例の番号で開けさせようとした。
『異議あり!』
わたしはよみに向けて、指を突きつけた。
「水原検事、その担当者の人間の変更を要求します!」
「な、何だと?」
よみは急に焦り出した。当然だ、一番よみの息が吹きかかったジャンボにやらせるのは公平じゃないからだ。
「弁護側は、かおりん巡査部長を担当にする事を要求します!」
『異議あり!』
よみは空かさず異議を申し立てた。
「かおりんではダメだ!かおりんは一番春日歩の息がかかっている!!」
「くっ!」
わたし達の攻防を見て、裁判長が怯えながら、木槌を叩いた。
「あ、あの・・・。別に誰がやっても同じなのでは?」
「絶対にダメだ!」
「ダメです!」
わたしとよみは裁判長を真っ直ぐ睨みつけた。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
裁判長は半べそ状態で怯えこんだ。
「ちよちゃん、ラチが開かないよ?どうするの?」
わたしは考えた。どちらの息も吹きかからず、どちらの味方もしない警察官を・・・。
「水原検事・・・。だったら、榊巡査はいかがですか?彼女なら、どちらの味方もしないでしょうし・・・」
「うぬぬ・・・や、止むを得ん・・・」
そして、わたし達は榊の到着を待つ間、小此木に別の証言を求める事にした。
「さて、裁判長・・・。ここで、この証人の無実を晴らす為に、事件が起きた時の事を証言してもらうのはどうかな?」
「そうですね、それに遅効性の毒の混入方法も気になりますし・・・」
裁判長も納得したという事で、事件が起きた時の事を証言してもらう事になった・・・。
「事件当時は、ちょうど昼間で一番空いている時間で、
 泉クン1人に任せていました。
 私はその為、事務室で事務の作業をしていて、
 大きな物音と奇声が聞こえたので、店内に行ってみると、
 死亡した被害者と気絶した泉クンと目撃者のお客様がいました。
 私は、お客様に通報を依頼し、その場で動かず待機しておりました」
結局、事件当時の内容はジャンボも証言していたが、やはり同じ様な内容だった。
3人の証言が一致している以上、この証言自体に嘘はないだろう・・・。
「どうかな?弁護士クン。どう足掻いていても、泉こなた以外には犯行は不可能だろう?」
「くっ・・・」
わたしは頭を抱えて机にうつ伏した。何か・・・、何か切り抜ける方法はないのか?と
「ねぇ、ちよちゃん・・・。気になっていた事があるんだけど・・・」
恵那はわたしに話し掛けてきた。
「この人、何か喋ってない事がある気がするんだけど・・・」
「え?」
恵那は何か引っかかる点があるらしく、わたしに尋ねてきた。
「ほら、留置所でこなたさんと変態の人が言っていたでしょ?」
こなたと変態の人(白石みのる)が言っていた事、わたしはその言葉で思い出した。
泉そうじろうが入店する前に一度だけ小此木が事務室を出ていた事だった。
その事が一切伏せられている。一体、何故?
「小此木さん!」
わたしは小此木の名前を張り上げ、机を叩いた。
「な、何でしょうか?」
小此木はわたしに睨まれて怖いのか、驚いただけなのかは解らないが、ビグッっとした。
「泉こなたと白石みのるが2人とも証言していたんですが・・・。あなた、泉そうじろうが入店する前に一度、事務室を出たそうですね?」
「そ、それが何か?」
小此木は目をそらせた。どうやら、捕まえたようだ。小此木の弱点を・・・。
「あなたは、その数分間、事務室を出て何をしていたのですか!?」
『異議あり!』
よみは異議を申し立てた。
「泉そうじろうが入店する前など、何の関係もない!!それに、証拠品に彼の指紋はなかったんだぞ!」
よみはわたしに指を突きつけて反論した。
『異議あり!』
わたしはよみの発言に異議を申し立てた。
「何も関係ないなら、何故証人はこんなに動揺しているんですか!?」
「ぐっ・・・」
よみは冷や汗まみれになり、白眼を剥いて睨んできた。
カン!
裁判長は木槌を叩き、異議あり合戦を止めた。
「弁護側の異議を認めます。証人、答えてなさい!」
「ぐっ・・・。そ、それは・・・た、大した事ではありませんし」
小此木は裁判長の命令に必死に逆らった。相当言いたくない事らしい。
「大した事ないなら、言えばいいじゃないですか・・・。言わないと、偽証罪とか何らかの罪になりますよ?」
裁判長は小此木を脅し始めた。
「どうやら、相当言いたくない事らしいですね・・・」
『異議あり!』
よみはわたしの発言に異議を申し立てた。
「だったら、キサマが立証すればいいだろう!もったいぶらずに・・・」
「いいでしょう・・・」
わたしは完全に勝ち誇った態度で証拠品を出した。
「あなたは、コレをラックに戻しに行ったんですね?」
「それは、メニューですか?」
「ふっ、それが何だというのかな?弁護人」
よみと裁判長は大した事のない証拠に呆れていた。しかし、小此木は動揺で冷や汗まみれになり、言葉を失っていた。
「水原検事、まだ気がつきませんか?このメニューのフチの青白い痕跡を?」
「何だと?」
わたしはポリバケツで拾ったメニューに残ったエレメンタルオキシロイドの痕跡を差した。
「あ・・・ああああああああああっ!!!そ、それは!!」
よみはやっと意味を理解し、焦り出した。
「あの、弁護人・・・」
裁判長は何が重要なのか解らず、尋ねてきた。
「その青白い痕跡は何ですか?」
「これは化学反応で検出された、エレメンタルオキシロイドの痕跡です。今回使われた毒薬の・・・」
「な、何ですってぇぇぇぇえええええええええええええっ!?」
裁判長も理解して、驚きだした。
「いかがですか?小此木さん。あなたは毒を塗ったメニューをラックに戻し、泉こなたに運ばせたのです!!」
「う・・・うう・・・・」
小此木は完全に反論出来なくなっていた。
『異議あり!』
すると、よみは急に異議を申し立て、余裕の表情を取り戻した。
「それが何かな?弁護人」
「何ですか?」
わたしはよみの落ち着きぶりの理由が読めず、嫌な予感を感じつつ尋ねた。
「確かに、そのメニューには毒の痕跡があるようだ」
「だ、だから!!それで、被害者を・・」
「だから何だというのかな?」
「え?」
わたしはよみが何を言いたいのか解らずにいた。
「ど、どういう事ですかな?水原検事」
「裁判長ならお解りだろう・・・。弁護側の立証に何の意味もない事に・・・」
あの裁判長はどう見ても解っていない様に見えますが?
「白石みのるの証言を思い出したまえ、被害者はコーヒーを口にしているが、他には何も口にしていなかった・・・」
「あ・・・」
わたしは自分の立証に意味がなかった事を知り、追いつめていたつもりが逆転されてしまった。
「確かに、その通りですな。いかがですかな?弁護人・・・」
わたしはもう逆転するチャンスを失い、完全に頭を抱えていた。
どうする?どうすればいい?こんな時、小岩井なら?大阪なら?・・・大阪なら・・・。
『もし、詰まった時は発想を逆転させるんや』
わたしは前回の法廷で大阪が言ったセリフを思い出した。「発想を逆転」させる・・・。
つまり、「メニューのフチの毒が体内に入った方法」を考えるのではなく、
「何故、メニューのフチに毒を塗ったのか」を考える・・・。
その時、わたしの頭の中で昨日のある出来事が浮かんだ。
『異議あり!』
「水原検事、そもそも何故この証人はメニューのフチに毒を塗ったかお解りですか?」
「え?ど、どういう意味だ?」
よみはわたしの質問の理由が解らず混乱した。普通に考えてみれば、最初からおかしかったのだ。
泉そうじろうを殺害するなら、別にカップにこっそり塗っておくとか方法はいくらでもあったのに、
敢えてメニューを選んだ理由が問題になるべきなのだ。
「べ、弁護人!あなたには理由が解るのですか?」
裁判長はちっとも解らず、混乱している。というか、この人考える気ないです。
「もちろんです。裁判長、少し頼みがあるのですが・・・」
「ん?なんでしょう?」
わたしは裁判長にお願いごとをした。
「わたしが『待った!』と言うまで、適当な冊子のページを1枚ずつめくり続けて頂けませんか?」
「か、構いませんが・・・、何故ですか?」
「やってみれば、解ります。これは、この場で頼めるのはあなたしかいないのです」
「まぁ、いいでしょう。解りました」
すると、裁判長は六法全書を持ち出し、適当に1枚ずつめくりだした。
「フン!こんな事で何を証明しようと言うのかな?」
よみが勝ち誇った態度を取っている最中・・・。
『待った!』
わたしは突然、待ったをかけた。
「な、何ですか?」
裁判長は何故、ストップを掛けられたのか解らずじまいだった。
「裁判長、今ページをめくる前に何をしましたか?」
「え?何って、指を舐めましたが?それが何か・・・?」
「あ・・・ああああああああああああああああああああああっ!!!」
よみはやっとトリックの正体に気付いたらしく、完全に焦り出した。
そう、これこそが毒が被害者の体内に入った真相なのだ。
「え?え?どういう事ですか?」
「埼玉県警の刑事課課長さんも同じ癖を持っていました。中年以上に多い癖です・・・。冊子をめくる際に指を舐めてしまう」
「ああああああああああああああっ!!そういう事ですか!!」
裁判長もやっと理解したらしく、驚いていた。
「つまり、泉そうじろうは・・・。指を舐めながらページをめくる癖があったから、命を落としたのです!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
小此木は遂に殺害方法を見破られ、精神的ダメージを負った。
『異議あり!』
よみはわたしに指を突きつけ、異議を申し立てた。
「だったら、このコーヒーカップにフチに付いた毒の反応はどう説明付けるつもりだ?」
「あ、そうだよ!ちよちゃん!!カップにも毒の反応あったじゃない!!」
よみと恵那はわたしにコーヒーカップに付着した毒に付いて質問してきた。
「水原検事・・・。逆・・・なんですよ・・・」
「ぎゃ、逆だと!?どういう意味だ?」
よみは本当に解らないらしく、相当焦ってきていた。
「このカップのフチの毒は、そこから毒が体内に入ったのではなく、舌を通じてカップに付着したのです!!」
「な、何ですってぇぇぇええええええっ!?」
裁判長はわたしのとんでもない発言に驚き、腰を抜かし、よみはもはや言葉もない状態に陥っていた。
ざわざわざわ・・・と更に傍聴人も誰も予想もしていない結論に騒ぎ出した。
カン!カン!カン!
「静粛に!静粛に!静粛にぃっ!!」
裁判長は木槌を鳴らし、騒ぎを静めた。
『異議あり!』
よみは突然、異議を申し立てた。まさか、これ以上食い下がるつもりなのだろうか・・・。
「弁護人!どうやら、調査不足だったようだな?」
「な、何ですって!?」
よみは冷静さを取り戻し、勝ち誇った態度でわたしを見た。
「確かに、そのメニューには毒の反応がある。しかし、そのメニューを被害者が持ったかどうかは証明されていない!!」
「ど、どういう事ですかな?水原検事」
よみは、被害者が毒の付着したメニューを使った証拠を求めてきた。それにしても、厄介な検事だ。
まさか、この窮地でまさかの逆転を仕掛けてくるなんて・・・。追いつめきったつもりが、追いつめられていたのだ。
「ち、ちよちゃん!?ど、どうするの!?指紋調べてなかったでしょ?」
「う〜ん・・・」
わたしは頭を抱えこの状況を打破する方法を考え始めた。とはいえ、そんなものが簡単に見つかる訳がない。
一体、何か手掛かりになる証拠品はないのか?
「ふぅ、結構やるとは思っていたが、やはりその程度か・・・」
よみは勝ち誇った態度を取り、わたしを鼻で笑った。キ〜!!ムカツクゥ〜!!
「やれやれだな・・・。春日歩なら、この程度軽く逆転してくるのだが、やはりアイツは超えられなかったようだな・・・」
「春日・・・歩・・・」
よみが「春日歩」の名前を出した時、わたしは頭を抱えた状態のまま今朝の事を思い出した。
そういえば、大阪から何を受け取ったっけ?そう思い、証拠品リストを調べてみた。
すると、この状況を打破出来る証拠がしっかり残っていたのだ。
『異議あり!』
わたしはよみに向けて人差し指を突きつけた。
「なんだ?弁護人、このまさか立証出来るとでも言うのかな?」
「ふっ、お礼を言わせて頂きますよ、水原検事」
わたしは勝ち誇った態度で、水原検事を憐れむ目で見た。
「な、なんだと?」
「あなたのお陰で少し、頭が冷めましたよ」
「どういう事ですか?弁護人」
裁判長は既に空気になっていた。
「裁判長、コレを見てください」
わたしは今朝大阪から預かったオシボリを裁判長に突きつけた。
「なんですか?おしぼりなんて?」
「問題はコレにはっきりうつっている青白いシロモノです」
「あ・・・・ああああああああああああああああっ!!!」
よみはとんでもない見落としに気付いたらしく慌てた。
「このオシボリにもエレメンタルオキシロイドの反応がありました。そして、これは被害者の席にあったオシボリです!!」
バン!
わたしは力一杯机を叩いた。
「つまり・・・!!被害者は、毒が付着したメニューを触った事が証明されるのです!!」
「な、なんだとぉぉぉおおおおっ!!」
よみは大ダメージを受け、退いた。
「さぁ、いかがですか!?小此木さん!!」
「う・・・ぐぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
小此木も相当のダメージを負い、汗が滝の様に流れていた。
そんな混乱の中・・・。
ガチャ!
「裁判長殿ーっ!!」
法廷係官が慌てて入ってきた。
「何ですか?係官!審理中ですぞ!静かになさい!!」
「そ、それが・・・たった今、金庫が解錠されたのですが・・・」
係官の態度は尋常ではなかった。とんでもない事を知ったからである。
「それで!暗証番号は?暗証番号はなんだったのですか?」
「い、1024です!!」
「何ですってぇぇぇええええええ!!」
「バカなぁぁぁぁああああああああああああああああああっ!!!」
裁判長を驚き、よみは完全に放心状態になってしまった。
「し、しかも、金庫の中に・・・大量の毒薬と思われる薬品の入った小瓶が大量に隠してありました!!」
「係官、今すぐ警官隊に指示を!!すぐに全ての薬品を押収しなさい!!大至急です!!」
裁判長は係官に緊急指令を下した。
ざわざわざわざわ・・・・
カン!
法廷内は騒ぎ出し、裁判長は木槌を鳴らして騒ぎを収めた。
「さて、みなさん落ち着いた様ですから、審理を再開します」
『異議あり!』
よみは異議を申し立てた。
「ちょっと待って頂きたい!弁護人、君はどうやってその暗証番号を発見したのだ?」
「簡単な事ですよ。わたしが昨日、営業事務室に入った時、既に2ケタ打ち込まれていたので、そこにアルミ粉を掛け、残り2つの数字を見つけただけです」
「お、おのれ・・・かおりんめ、余計な事を・・・」
よみはかおりんを恨みながら、悔しそうな顔をした。
「ただ、今思っていれば、この数字を暗証番号にしたのは偶然じゃなかったんですよね?小此木さん」
「ど、どういう事です?」
わたしは金庫で発見した新聞紙を出した。
「あなたの金庫の中に2年前の10月24日の日付の新聞が入っていたんですよ。それだけ、大事な日だったのでしょう」
「う・・・」
小此木は返す言葉もなかった。
「2年前の10月24日がどうかしたんですか?」
裁判長は何も知らないので、ちんぷんかんぷんだった。
「裁判長、実は2年前に春日部で麻薬密売殺人犯が逮捕された事件があったのだ」
よみは2年前の事件の説明をした。
「ま、まさか・・・水原検事・・・?」
「ふん、私を舐めてもらっては困るな。エレメンタルオキシロイドの事も知らずに法廷に出てきているとでも、思ったかな?」
流石は、水原検事・・・。この程度の情報は既にお見通しだったか。
「裁判長、この新聞のこの写真の右に写っている、髪の長い男に注目して下さい」
わたしは新聞の1面に写った写真の右の男を指差した。
「ふむぅ、男が髪を伸ばすなど、論外ですなぁ」
「いやいや、そんな事はどうでもいいです。小此木さん、この男は貴方ですね?」
「な、なんの事でしょう・・・か?」
小此木はわたしからそっと目を逸らせた。
「残念ですけど、泉こなたが証言しているんですよ。この男があなたであると・・・」
「ひっ!!し、知らない!!私はそんな・・・」
小此木は急に怯え始めた。バレるのも時間の問題だろう・・・。
「小此木さん。その髪を止めているヒモを取って頂けますか?そして、この写真と比べましょう。これで事件は解決です!」
「う・・・う・・・うぉおおおおおおおおああああああああああああああああああああああっ!!」
小此木は奇声を上げ暴れ出し、そして髪止めも取れてしまった。その取れた姿は正に、写真の男そのものであった。
これで、やっと事件は解決したのだっ・・・・
『異議あり!』
・・たと思った瞬間、よみが異議を申し立てた。
「そこまでだ!美浜ちよ!!」
よみはわたしに向かって指を突きつけた。
「中々面白い推理だったよ・・・。だが、その新聞記事をよく読んでみたまえ」
「新聞記事ですって?」
わたしは新聞記事を読み出すと、とんでもない見落としに気付いた。
「あ・・・・」
「気付いたようだな・・・」
「ど、どういう事ですか!?」
裁判長はまだ気付かないようだ。というか、どれだけ無知なんですか?あんたは・・・。
「この記事には、こう書いてある。『エレメンタルガーネットは全て押収した』・・・とな!」
「あぁ!!本当です!!」
裁判長はやっと気付いたようで嬉しそうだ。
「つまり、全て押収された筈のエレメンタルガーネットに化学反応させたエレメンタルオキシロイド。どちらもこの証人には入手は不可能なのだよ」
「う・・・・きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!!」
よみはとんでもない土壇場で、状況を完全にひっくり返してきたのだった。
「ちなみに、エレメンタルガーネットは今でも埼玉県警で保管されている。シロートには入手は不可能なのだよ」
「・・・埼玉県警・・・」
わたしは埼玉県警の資料室で、エレメンタルガーネットの大量紛失の事を思い出した。
警察の地下にある麻薬をこの人が盗めただろうか・・・。もしかしたら・・・。
「くっくっくっ、弁護人。それとも、埼玉県警の人間でも尋問してみるかな?」
よみは勝ち誇った態度でわたしを見下した。そういう目で人を見るのはどうかと思うけど。
「・・・埼玉県警の人間を尋問する・・・。・・・・!!」
わたしはよみの言った事をヒントに、
『異議あり!』
異議を申し立てた。
「裁判長!弁護側は、水原検事の挑戦を受けたいと思います!」
「埼玉県警の人間を尋問するのですか?」
「はい!埼玉県警の人を尋問します!」
「解りました。証人の喚問に時間もかかるでしょうから、今日はここで閉廷しましょう。それではこれにて・・・」
『異議あり!』
わたしは、審理の閉廷に異議を申し立てた。
「裁判長、閉廷の必要はありません!」
「な、何ですと?」
裁判長は突然の事で驚いた。
「実は、この法廷の傍聴席に埼玉県警の人間がいるのです」
「な、なんだと?」
よみも予測していなかった事に驚いている。
「成美ゆい巡査・・・。埼玉県警の交通安全課の婦警です」
『異議あり!』
よみは異議を申し立て、わたしに指を突きつけた。
「ちょっと待て!交通安全課だと?事件とは関係ないではないか!!」
『異議あり!』
わたしはよみの発言に異議を申し立て、指を突きつけ返した。
「そうとも限りません!刑事課の課長さんは言っていました。埼玉県警の人間なら自由に出入り出来ると!」
「うぐぐ・・・」
よみは黙ってしまった。
「いかがでしょうか?水原検事」
「・・・まぁ、いいだろう。検察側に異議はない。成美ゆい巡査を証人として認めよう」
よみは意外とあっさり折れた。最も早く尋問するチャンスがある関係者は彼女しかいないからだ。
「解りました。次の証人として、成美ゆい巡査を召喚しましょう。それでは、30分間の休憩に入ります」
カン!
裁判長が木槌を鳴らし、わたし達は30分間の休憩に入った。

つづく