9月14日 午後2時57分 地方裁判所 被告人第4控え室 「つ、疲れたぁ・・・」 わたしは疲労のあまり、座り込んだ。 「それにしても、凄い推理じゃない!」 かがみはわたしの推理に関心したらしく、話し掛けてきた。 「うん!そうだよ。指を舐めてページをめくる癖を利用したトリックを暴いちゃうんだもん!」 つかさも一緒になってはしゃぎ出した。やっぱり誰の想像も付かない結果だったのだろう。 「よかったね!こなちゃん!この調子なら、こなちゃん無罪だよ!」 「う、うん・・・」 つかさが明るく話し掛けてきたが、こなたは元気がなさそうだ。 「どうかしたの?こなたらしくないわね!」 かがみもこなたの様子が気になり、近くに行った。 「いや、店長いい人だったのに、お父さんを殺した犯人だったなんて、ショックで・・・ね」 「こなた・・・」 こなたの心境を聞いた双子も黙ってしまった。 「でも、こなたお姉ちゃん!次は、わたしのお姉ちゃんが証人台に立つし、きっと守ってくれるよ!」 ゆたかはそう言い、こなたを励まそうとした。 「・・・それは、どうやろ・・・な」 大阪は真剣な表情で控え室に入ってきた。 「あ、大阪さん!何処に行ってたんですか?」 「ちょいと、裁判所の資料室に。2年前の麻薬殺人事件の資料を探していたんや」 そう言い、大阪は資料をわたしに手渡した。 「成美ゆい巡査は仮にも警察官だ。そう感情に左右される証言が出るとは思えへんけどな・・・」 「・・・ですね」 大阪の冷たい発言にわたしも同意した。 「そんな、お姉ちゃんはそんな冷たい人じゃぁ・・・」 大阪はゆいを庇おうとするゆたかの肩に手を乗せ、真剣な目で見つめた。 「えぇか。お嬢ちゃん・・・。法廷は裁きの庭や・・・。真実を追求すれば、必ず踏み出さなくちゃいけないポイントがあるんや・・・」 「ふ、踏み出さなくちゃいけないポイント・・・?」 「・・・時には悲劇を生むかもしれへん・・・ちゅーことや・・・」 「え・・・」 大阪はそう言い放ち、ゆたかから離れ、わたしの前に立った。 「ちよちゃん・・・。ここから先は、きっと厳しい道になると思うけど、気を抜かんようにな・・・」 「大阪さん・・・」 「何より、苦しいのは・・・。今の所は決定的な証拠が何もないのがネックやな・・・」 大阪はのん気に笑いながら言い放った。って、そこで笑いますか? 「えぇか、ちよちゃん。こういう時の突破方法を2つ教えたる・・・」 「な、何ですって?」 わたしは身を乗り出し、大阪に近寄った。 「まず1つは、ハッタリをカマす事や!」 「は、はったり・・・」 私はちょっと呆れてしまった。もっといい方法はないのか・・・と。 「それと、もう1つは、”弁護士っていうのは、ピンチの時こそ、ふてぶてしく笑っているモノ”やで!」 「は、はぁ・・・」 わたしは大して役に立たないアドバイスを受け、最後の法廷に挑むことにした。 9月14日 午後3時30分 地方裁判所 第7法廷 遂に、この事件最後の法廷が再開された。 「それでは、審理を再開します。水原検事、お願いします」 裁判長は、よみに振った。 「うむ。弁護人により参考として、召喚された証人。成美ゆい巡査を入廷させてほしい」 ゆいは係官に連れられ、証言台に立った。 「それでは、証人。名前と職業を・・・」 「成美ゆいで〜す!職業は、埼玉県警の交通課の巡査です!よろしく!」 ゆいは明るく挨拶と自己紹介をした。 「成美巡査、あまり不真面目にやっていると、来月の給与査定が楽しくなるぞ?」 よみはゆいに睨みをきつく睨んで、笑ってない目で笑って言い放った。 「は、はい・・・。す、すみません・・・」 ゆいは急に怖くなって、怯え出した。 「さて、それでは早速証言をお願いしましょう。まずは、麻薬の紛失事件について聞かせて頂きます」 「あれは5日前の事でした、署長が県警の全体朝礼で発表したんですけど、 2年前の事件で押収した麻薬がなくなったと・・・。 その日の刑事課は大忙しだったそうです。 それにしても、誰が警察署内で保管されてる麻薬なんて盗むんでしょうね・・・」 『待った!』 わたしはゆいに指を突きつけた。 「ゆいさん、ちょっといいですか?」 「ん?何かな?」 「あなたは麻薬紛失についてもっと詳しい事を知っているようですね?」 「え?」 わたしの何気ない発言に、ゆいは疑問を抱く。自分が今何を口走ったかも知らずに。 「どういう事?弁護士さん・・・」 「それでは、逆にお尋ねしますが、どうしてあなたは知っているんですか?麻薬が盗まれた事を・・?」 「はっ!」 ゆいはとんでもない発言をしてしまったことに気付き、動揺しだした。 「い、いやぁ・・・全体朝礼で聞いたから・・・」 『異議あり!』 よみは急に何か嫌な予感がしたらしく慌てて異議を申し立てた。 「と、とにかく!この証人は何か知るチャンスがあったのだ!」 『異議あり!』 わたしはよみの発言に激しく異議をぶつけた。 「そのチャンスが問題なのです!!」 わたしは机を叩き、よみを睨みつけた。その様子を見た裁判長は不審に思い、わたしに尋ねた。 「べ、弁護人?どういう事ですか?」 わたしは資料を手にとった。 「いいですか?問題は麻薬・エレメンタルガーネットが保管されていた場所です!」 「場所・・・ですか?」 裁判長は今一つよく解っていない様子で、首を傾げた。 「成美ゆいさん、確か麻薬が保管されていた場所って何処でしたっけ?」 わたしはゆいに簡単な質問をしてみた。 「え?場所?確か、県警本部の地下資料室ですけど?それが、何か・・・?」 ゆいは嫌な予感を感知して、怯え出した。 「地下資料室ですか・・・。そこにはどうやれば入れますか?」 「えっと、それは・・・警察のIDカードが必要だね。部外者が入ったらまずいじゃない?」 ゆいは顔を引きつり笑いながら発言した。 「ふむぅ、確かにその通りですなぁ、如何ですか?弁護人」 裁判長はわたしに話を振ってきた。 「そうですね、その通りです。ちなみに成美ゆいさん。入れるのは、警察関係者でも限られてましたよね?」 「は、はい・・・。警察署長以上の人、若しくは県警本部の警察官なら誰でも入れますよ」 『異議あり!』 さっきまで大人しくしていたよみがいきなり異議を申し立てた。 「ちょ、ちょっと待て!弁護人、キサマ・・・。この事件に警察内部に共犯者がいると言うつもりか!?」 「え!?ど、どういう事ですか?水原検事」 裁判長は考える気もないようだ。 「犯人が、泉こなたにせよ、小此木もとひろにせよ、麻薬を手に入れるには警察関係者の協力がなければ不可能という事だ!」 「な、何ですってぇぇぇえええええええ!?」 裁判長はよみの解りやすい説明に理解したらしく奇声を上げた。 ざわざわざわざわ・・・ カン!カン!カン! 傍聴人も騒ぎ出し、裁判長が木槌で騒ぎを収めた。 「静粛に!静粛に!静粛に!べ、弁護人!!あ、あなたは本気ですか!?」 裁判長はあまりの事に動揺し出した。まさか、わたしが警察関係者の告発をすると思ってもみなかったから・・・。 「もちろん、本気ですよ。ただ、共犯者というのは違いますけどね・・・」 「それは一体どういう・・・」 『異議あり!』 「それは一体どういう事だ!弁護人!!」 よみは裁判長の言いたい事をかき消し、異議を申し立てた。 「よく考えてみれば解りますよ。泉こなたにも、小此木もとひろにも、泉そうじろうに対する動機がないのですから!!」 『異議あり!』 よみはわたしの発言に異議を申し立て、指を突きつけた。 「ど、動機だと!?」 「水原検事、仮に泉こなたが犯人だとして、彼女にどんな動機があるというのですか?」 「え、あ・・・そうだなぁ・・・」 よみはわたしの質問に答えが見つからず焦り出した。 「そういえば、事情聴取で大切にしていたフィギュアを大人買いされたとか言っていたな!!それだ!!」 『異議あり!』 わたしは余裕の表情で異議を申し立てた。 「まったくお話になりません。そんな動機ならわざわざ喫茶店を現場に選ぶ必要はありませんし、殺害する動機が弱過ぎます!」 「う・・・ぐ・・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」 よみは大ダメージを食らい、のけぞった。 「ふむぅ・・・では、結局。動機になりそうな事が1つもなくなってしまいますね・・・」 「果たしてそうでしょうか?」 「ど、どういう事ですか?」 わたしの余裕の表情に裁判長は首を傾げ尋ねた。 「今回の事件でエレメンタルガーネットの化学反応させた姿の、エレメンタルオキシロイドが使用されたのは偶然ではないと考えるならば・・・」 「ま、まさか・・・2年前事件が、動機に繋がっていると言うのか!!」 よみは動機が2年前にあるのを理解したらしく、わたしの問い詰めた。 「その通りです!そして、この新聞の写真をご覧下さい!」 わたしは警察の資料室にあった新聞を取り出し、写真に写った男を差した。 「この人物ですけど、皆さん見覚えありませんか?」 「な・・・こ、この人物は・・・!!」 「被害者、泉そうじろうではありませんかっ!!」 よみと裁判長は2年前の事件に泉そうじろうが絡んでいた事を知り盛大に驚いた。 「まさか、この新聞を見て、泉そうじろうを殺害しようとしたという訳か・・・」 よみは白目を剥き、唇を震わせ、冷や汗まみれになりながら、言い放った。 「その通りです!!つまり、この事件に関係している警察関係者が真犯人という事になります!!」 「で、では・・・その真犯人は一体誰なのですか!?」 ついに、この時が来た。この事件の黒幕を告発するチャンスが・・・。 「成美ゆいさん・・・」 「な、何ですか?怖いよ?」 わたしはゆいを真っ直ぐ睨んだ。 「成美ゆいッ!弁護側は、あなたを泉そうじろう殺害の本当の真犯人として告発します!!」 「え・・・ええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」 わたしはゆいに指を突きつけ、殺人者として告発した。そう、わたしは埼玉県警で行きあってからずっと引っかかっていたのだ。 事件の関係者で唯一堂々と麻薬が盗めて、確実に罪から逃げる手段を考えそうな場所にいそうな人・・・。 そして、こなたから小此木の金庫の中の新聞のもう1人の男が彼女の夫だった事、全てが1本のロジックで繋がっているのだ。 「べ、べ、弁護人!!今の発言はどういう!?」 裁判長は予想外の展開で慌てだした。当然だ、誰も予想などしていない事なのだから・・・。 『異議あり!』 よみは裁判長の発言を打ち切り、異議を申し立てた。 「まさか、弁護人!!最初からこれが狙いで・・・。成美ゆいを堂々と告発する為に、証人台に呼んだのか!?」 「その通りです!それに、わたしは今日の法廷で1度たりとも、小此木もとひろを真犯人だとは言っていませんからね」 「べ、弁護士さん!私は、あなたにこなたちゃんの弁護を依頼した張本人だよ?そんな・・・」 『異議あり!』 わたしはゆいの発言に異議を申し立てた。 「逆ですね・・・」 「え?」 「あなたがわたしを弁護人に仕立てた理由です。10歳で弁護士になったお子様相手なら、自分が犯人であるとバレないと思ったのではないのですか?」 「ぐっ!!」 ゆいはその発言を聞き、ダメージを受けた。 「ふぅ〜ん、そう来るんだ・・・」 ゆいの目つきが急に冷たくなった。 「随分な事を言ってくれるじゃないの?お子様弁護士ちゃん・・・」 「お、お子様弁護士ちゃん・・・?」 わたしはゆいの発言にカチンと来た。 「そんな言い方ないでしょ!!」 恵那はゆいの態度に我慢ならず、キレた。 「2ヶ月間も依頼の来ないお子様弁護士に弁護を依頼して、こなたさんを有罪にするのがあなたの狙いってのはもう割れてるんだからね!!」 恵那ちゃん・・・。酷い・・・。わたしは、恵那の発言にガックリきていた。 「いい加減にしてよ!何でわたしがこなたを殺人者にしなくちゃいけないのよ?」 「え?」 ゆいに怒鳴られ、恵那は黙ってしまった。 「おじさんもこなたも親戚なのよ。それも、妹の下宿先の・・・。父親を殺害させて、娘に罪なすりつけて何の利益があるっていうの?」 「じゃ、じゃぁ・・・何であなたはちよちゃんに弁護を依頼させたのよ!」 「そ、それは・・・」 「・・・小岩井やな?成美ゆいさん・・・」 突然、大阪が恵那の隣に立った。 「お、大阪さん!?」 「か、春日歩ぅっ!!」 突然の大阪の登場にわたしは驚き、よみの顔色が悪くなった。 「小岩井なら、確かにあなたの理想通りの弁護をしたやろなぁ・・・」 「どういう事ですか?大阪さん!!」 わたしは大阪の言っている意味が解らず質問してみた。 「小岩井は無罪の為に、自分の名声の為に弁護をする男や。泉こなたを救って、罪を全て小此木もとひろに着せて逃げるつもりやったんやろ?」 「ぐっ・・・・う・・・・・。きゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」 ゆいは奇声を上げた。 「じゃ、じゃあ・・・2年前の事件が動機だったとして、私が泉そうじろうをどうしても殺害しなくちゃいけない理由が解るっていうの?」 「もちろん、解るで!弁護側は完璧に立証したる!あなたの罪を・・・な!」 「そう、もちろんです!」 大阪がゆいに反論し、わたしも釣られて同意してしまった。 「ちゅーことで、あたしは傍聴席に帰るから〜。あと、よろしゅう」 「お、大阪さん!?」 大阪は無責任に火に油を注いでおいて、逃げやがりました。 「弁護人、それでは立証して下さい。この証人が2年前の事件を動機にしている理由を!!」 「え、えーっと・・・」 「ちよちゃん、ふぁいと!」 わたしは、急な展開で焦り、頭が真っ白になってしまった。大阪さん、余計な事を・・・。 「動機は・・・・えっと・・・・」 わたしは机にうずくまり、頭を抱えて必死に悩んだが、浮かばずに困っていた。 「フッ、やはりな・・・」 よみはわたしの姿を見て鼻で笑った。って、ムカツク〜!! 「裁判長、どうやら決着は着いたな。弁護側にはこの証人の動機を示す事を出来ないようだ」 「ふむぅ、そうですね。弁護側もおとなしくなったようですし・・・」 裁判長が木槌を叩きかかっている。もう有罪判決を下そうと考えているようだ。マズい・・・。 わたしは必死に考えた。何か2年前と成美ゆいを繋ぐ何かはないのか!? 「ちよちゃん、ちょっといい?」 恵那はわたしに話し掛けてきた。 「昨日、留置所でこなたさんが言ってた事が気になるんだけど・・・」 「こなたさん・・・?」 わたしは恵那の発言で何かを思いつきかけ、大阪が持ってきた資料を見直した。 そこで、手がかりになるモノをやっと発見した。 「え〜それでは・・・」 『異議あり!』 わたしは木槌を叩きかけた裁判長に力一杯異議を申し立てた。 「な、何ですかな?」 「弁護側は成美ゆいの動機を示す事が出来ます!」 「な、何だと!?」 よみは予想外の展開に退いた。 「弁護士さん、あまり無理しない方がいいよ?」 ゆいは優しくわたしに語りかけた後、 「どうせ、そんなモノある筈がないのだから・・・」 冷たい目でわたしを見下した。 「証拠は、この2年前の資料です!」 わたしは資料を持ち出し、盛大に突きつけた。 「この資料が何か?」 裁判長は何が大事か、理解していない。 「大事なのは、この麻薬殺人事件の被害者です。この中に、《成美》の苗字をした人の名前がありました」 「っ!!」 その名前を上げた途端、ゆいの目の色が変わり、急に冷や汗を流し出した。 「成美きよたか・・・。あなたと関係のある人物ですね?」 わたしはゆいに向けて指を突きつけた。 「さ、さぁ・・・ただ苗字が同じだけでしょ?そんなの偶然に・・・」 『異議あり!』 わたしはゆいの発言に異議を申し立てた。 「残念ですが、それは通りませんよ?」 「え?」 「成美きよたかは、あなたの旦那さんじゃないですか!!」 『異議あり!』 よみがわたしの発言に異議を申し立てた。 「バカな!!成美きよたかが、成美ゆいの夫である証拠か、証言出来る人物がいるというのか!!」 よみはわたしに指を突きつけ反論を掛けてきた。 『異議あり!』 わたしはそのよみの発言に異議を申し立てた。 「もちろんです!泉こなたがはっきり証言しています。成美きよたかが、成美ゆいの夫であると!」 「ぐっ!」 「残念でしたね、成美ゆいさん。あなたと成美きよたかの関係なら泉こなたか小早川ゆたかを証言台に立たせれば、一発アウトですよ?」 「う・・・ぐっ!!」 ゆいは完全に言葉が詰まった。 「さらに、この小此木もとひろの金庫にあった新聞に小此木と一緒に写った成美きよたかがいます!泉こなたがこの人物が成美きよたかであると証言しました」 「こ、こなた・・・・が・・・?」 「さぁ、いかがですか!!あなたには立派な動機があった!!そして、この事件をネタに小此木もとひろを脅迫し、泉そうじろうを殺害させたのです!!」 「や、やめてぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」 ゆいはうずくまり、奇声を上げた。 「どうやら、これまでの様ですね。それでは、被告人・泉こなたに判決を言い渡しましょう!」 裁判長は、無罪判決を下すため、木槌を手に取った。その時、 『異議あり!』 何と、よみがこの展開で異議を申し立てて来たのだ。 「そこまでだ!美浜ちよ!!」 「み、水原検事?どうかしましたか?」 裁判長は突然の異議に驚いてしまった。 「裁判長なら、お解りだろう・・・。只今の立証には、何の意味もない事が!」 「な、何を言い出すんですか!!」 「そうですよ!!ちよちゃんの立証は完璧です!!」 よみの発言にわたしと恵那は身を乗り上げ文句を付けた。 「だったら、その自称完璧な立証に風穴を開けてみせようか?」 「な、何!?」 まさか、本当に意味がなかったのか・・・? 「弁護人、君の主張はこうだな?『成美ゆいは夫を殺害された2年前の事件を動機に小此木を脅迫し、殺害の指示を出した』」 「え、えぇ・・・そうですけど・・・?」 「それならば、成美ゆいはどうやって脅迫したというのかな?」 「あっ!!」 わたしはとんでもない見落としに気付き、冷や汗をかきだした。 「そ、そう!そうだよ!証拠だよ、証拠!!」 ゆいも完全に立ち直ってしまった。 「さぁ、今すぐ成美ゆいが脅迫した決定的な証拠を見せて頂こうか!!」 「う・・・・きゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」 追いつめていた状況で、よみがまさかの逆転劇を見せ、わたしは立ち上がる力すらなくなってしまった。 「し、しっかりして!ちよちゃん!!」 「も、もう・・・ダメです・・・。脅迫をした決定的な証拠なんて1つもない・・・。もうわたしには・・・」 わたしは机にうずくまり頭を抱えて伏せこんでしまっていた。 「フッ、やはり君ではこの程度に過ぎないのだよ。お子様弁護士クン・・・」 よみは勝ち誇った態度でわたしを見下し、裁判長に有罪判決を誘導した。 「ちよちゃん!!お母さんに言われた事を忘れたの!?ピンチの時こそ笑って!!」 「む、無理ですよ、恵那ちゃん・・・。わたしにはもう・・・」 恵那の励ましも、もうわたしの耳には入らない。負けを認めてしまったのだから・・・。 「どうやら、弁護人には決定的な証拠の提示は出来ないようですね。それでは、泉こなたに判決を言い渡します」 『異議あり!』 裁判長が木槌を手に取り、判決を言い渡す直前で異議を申し立てたのは・・・。 「い、今の異議はどなたが?」 「わたしです!!」 恵那が判決に異議を申し立てた。 「弁護側には、ゆいさんが店長さんを脅迫したっていう、えっと・・・決定的な証拠を提示する用意があります!」 恵那はとんでもないハッタリをかました。 「な・・・」 「な・・・」 「な・・・」 「何ですってぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!?」 『異議あり!』 一番驚いているわたしの態度によみは異議を申し立てた。 「何故、キサマが一番驚いている!?」 「弁護人、それは本当なんですか?」 裁判長も怪しげに尋ねてきた。 「さぁ、ちよちゃん!今すぐ証拠を出しちゃおう!」 「え、恵那ちゃん!そんな証拠は・・・」 「言ったでしょ?ピンチの時のお母さんの技を・・・」 大阪が控え室で言った「ピンチの時こそふてぶてしく笑え」と、「時にはハッタリも戦法のウチ」。ハッタリ・・・。 「え〜、も、もちろんありますよ!ありますとも!」 わたしはひきつった顔で笑い、無理に強がってみた。 「あの、大丈夫なのですか?強がりにしか聞こえませんが?」 裁判長にすらバレている・・・。 「き、気の所為です!!」 「それでは、提示してもらいましょう。その決定的な証拠を・・・」 「決定的な証拠はコレです!」 わたしが取り出したのは、小此木の机で発見した青い封筒だった。 「これは、小此木もとひろのデスクから発見された脅迫状です」 「脅迫状だと?聞いていないぞ、私は!」 どうやら、脅迫状の事を報告されていないらしく、よみは焦りを見せた。 「宛名はありませんが、かおりん巡査部長の筆跡鑑定の結果、成美ゆいの筆跡であると報告が出ているんです!」 「な、何だと!?」 よみは身体を震えさせ、怯え出した。 「さぁ、如何ですか!!この脅迫状であなたは小此木を脅迫したのです!!」 わたしは真っ直ぐゆいに指を突きつけた。 「ふっ・・・あーはっはっはっはっはっはっはっ!!いやぁ、笑わせてくれるねぇ、弁護士さん」 ゆいは急に高笑いを始めた。 「どういう事ですか?これは確かにあなたの筆跡が!!」 「ハッタリも大概にしなよ。その脅迫状はパソコンで書いてあるのよ!私の筆跡が発見される訳ないじゃない!!」 その一言を聞いた途端、法廷内が静まり返った。 やっと、事件は解決したのだ・・・。 「ちょ、ちょっとみんな?何で黙ってるの?何か言ってよ?ね、ねぇ、検事さん!!あなたも何か・・・」 「ま、まだ解らないのか?成美ゆい、キサマ・・・今とんでもない発言をしたんだぞ!!」 よみは激怒し、ゆいを睨んだ。 「ど、どういう事?」 ゆいはよみや周りの反応に焦りだし、私に尋ねてきた。 「この脅迫状は、確かにワープロ文字で書かれています。でも、何故あなたがそれを《知っている》んですか?」 「え?」 「これは、今まで提出するチャンスがなく、わたしがずっと持っていたんです。水原検事が言うように報告も上がっていない」 「あ・・・ああああああああああ」 ゆいは自分がとんでもない発言をした事に気付き焦り出した。 「つまり、あなたは今認めたのです!自分が小此木を脅迫した事を!!そして、泉そうじろうを殺害させた事を!!」 「う・・・・」 「さぁ、いかがですか?成美ゆい!!」 「い・・・いやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」 成美ゆいは悲鳴を上げ、そのまま証言台に跪いた。 法廷内は一時的に静まり返り、やがて裁判長が木槌を鳴らし、ゆいに話掛けた。 「成美ゆい、一体どういう事ですか?」 「弁護士さんの言ってる事は本当です・・・私が・・・そうじろうおじさんを殺させたんです・・・。あの男・・・小此木に・・・」 ―1週間前・・・。 PLLLL〜 ルミエールの営業事務室に電話が入った。 「はい、小此木ですが?」 「小此木さんですか?2年前の麻薬殺害事件の被害者の親族の者ですが・・・」 「っ!!」 小此木はボイスチャンジャーの声を聞き、焦り出した。 「な、何故!?何故、あの事件の被害者の親族が私に!?」 「あなたが、2年前唯一捕まらなかった容疑者であるのは、既に調べがついているのです・・・」 「ひっ・・・!お、お前、一体どうやって私を調べた!?」 小此木は焦り出し、電話の相手に怒鳴りつけた。 「『オマエ』?随分な言い方ですねぇ?私はあなたを警察に突き出してもいいのですよ?」 「ま、待ってくれ!!そ、それだけは!!」 小此木は警察を恐れ、怯え出した。 「あなたにお尋ねします。『成美きよたか』をご存じですね?」 「うっ!!」 「あなたがやったんですか?正直に答えないと警察に突き出しますよ?」 「わ、解った!!そうだ、俺があいつをきよたかをエレメンタルオキシロイドで殺した!!認めるよ!!だから、警察には!!」 「そうですか・・・」 相手の声が暗くなった。こいつが、夫を・・・。 「頼む!!俺、何でも言う事聞くから!!勘弁してくれ!!やっと落ち着いてまともな仕事を経営出来たんだ!!」 「でしたら、あなたには殺害して頂きたい人物がいるのです・・・。指示は後で手紙で送ります・・・」 「わ、解った!!その人物を殺せば、俺は助かるんだな?」 小此木は簡単に了承した。 「簡単だったよ。警察に突き出すなんて言ったら、私の家来になってくれたんだから・・・」 ゆいは笑っているように見えて悲しそうな顔をしていた。 「ただ誤算があった・・・。あいつが、こなたに罪を着せるなんて考えてなかったから・・・」 「あなたは最初から、小此木に全て罪を被せるつもりでいたんですね?」 「そう・・・。あいつは、2年前の事件の逃亡者であり、今回の殺人犯、そして麻薬不正所持。この3点があれば、重罪は確実よね・・・」 「ゆいさん・・・」 わたしは哀しい顔をして、ゆいを見た。 「そしてもう1つの誤算はあなただよ、弁護士さん」 「わ、わたし?」 ゆいの意外な一言でわたしはちょっと驚いた。 「私、信じていたから、小岩井弁護士さんの愛弟子ならきっと、こなたを助けて小此木1人を捕まえてくれるって・・・」 「う・・・」 わたしはゆいの言葉でちょっとガッカリした。そんな理由で選ばないで欲しかったから・・・。 「あなたもある意味で被害者だったのですね?」 裁判長が尋ねると、ゆいは優しい表情になり、 「いえ、私は殺人脅迫者ですよ。そして、ケリは自分自身で着けます」 ゆいはそう言い、腰のショルダーの銃を取り出し、自分のコメカミに突きつけた。 「ゆ、ゆいさん!!」 「いやぁぁああああああああああああああああああっ!!」 法廷内は大パニックになり、よみはその状況で完全に立てなくなっていた。 「こなたちゃん、ゆたかの事・・・よろしくね・・・。さようなら・・・」 「ダメ!!ゆい姉さぁぁぁあああああああああああああああんっ!!!」 こなたの静止も聞かず、ゆいは引き金を引き・・・。 パン!! 銃が撃たれた・・・。 しかし、弾丸は逸れて、天井に刺さり、何故かゆいの銃が地面に落ちていた。 「な、何!?な、ナマコ?」 ゆいの右手の甲にナマコが張り付いていた。その瞬間だった。 「きゃっ!」 ゆいを後ろから誰かが取り押さえた。 「法廷係官!!今すぐ彼女を取り押さえるんや!!」 何と、ゆいの背後から出てきたのは大阪だった。 大阪は咄嗟にナマコを投げつけ、銃を落とし、隙をついて取り押さえたのだ。 「春日歩!!あなたは、一体!?」 裁判長は突然の事で驚きを隠せない。 「判決の下らない裁判なんて、一番不幸な結末しか呼ばない・・・。あたしはそういう事件を経験していますから・・・」 「大阪さん・・・」 大阪はそう言い、よみの方を見た。 「あんたもそう思うやろ?水原検事・・・」 「か、春日・・・歩・・・」 よみはゆいが自殺しかけた時、一番怯えていた。何かトラウマがあるかのように。それを大阪は知っていたのか、優しく声を掛けたのだ。 「う・・・・うむ。仕方がないな・・・」 そう言い、よみは軽く笑った。 こうして、事件は解決し、判決の時を迎えた。 ざわざわざわ・・・ カン! 「水原検事、成美ゆいは?」 「緊急逮捕した。小此木もとひろと2人で泉そうじろう殺害容疑及び、麻薬不法所持の罪でだ」 「よろしい・・・。それでは、泉こなたに判決を言い渡しましょう・・・」 無罪 「それでは、本日はこれにて閉廷致します!」 カン!と裁判長が木槌を叩き、裁判は無事終了したのだった。 9月14日 午後5時42分 地方裁判所 被告人第4控え室 「こなたぁぁぁああああっ!!」 「のわぁっ!」 かがみがこなたに抱きついてきて、泣き出した。 「よかった・・・本当によかった・・・」 「く、く、苦しいよぉ、かがみ〜ん」 こなたは苦しそうに言った。 「おめでとう、こなちゃん」 「やっぱり、泉さんは殺人なんてやっていなかったんですね・・・」 つかさとみゆきはこなたの無罪を盛大に喜び、声を掛けた。 「みんな、ありがとう・・・。でも・・・あまり喜んでる訳にもいかない・・・んだよね・・・」 こなたはゆいの事を思い、ちょっと寂しそうな顔をした。 「こなたさん、ゆたかさん、ごめんなさい・・・。2人にとって大事な人なのに・・・」 「弁護士さん・・・」 わたしは、どんな理由であれ、2人の大事な家族を奪ってしまった事を後悔し、2人に謝罪した。 「・・・いや、これでよかったんや。ちよちゃん」 大阪がそう言い、控え室に入ってきた。 「お母さん!さっきまで、何処行ってたの?」 「ちょっと、かおりんに伝言頼んで来たんや・・・。成美ゆい宛の・・・な」 「ゆいさんに?」 恵那はちょっと不思議に思った。大阪がゆいに何の用だったのだろう・・・と。 「榊ちゃんから聞いた話なんや・・・。例の成美きよたかについて医学界で調べてもろうてたんやけど・・・」 「榊さん?」 榊は獣医とボランティアでかおりんの手伝いを掛けもちしている身だが、医学界にも顔が利くのだ。 「成美きよたかが、今朝意識を取り戻したそうや・・・」 「え・・・ええええええええええっ!?」 一同はあまりの事に唖然とした。当然である。死んだと思った人物が生きていたのだから・・・。 「実はな、成美きよたかは毒殺されかけたんやけど、致死量に満たないギリギリラインで何とか生き延びれたらしいんや・・・」 「きよたかお義兄ちゃんが生きてる・・・?」 ゆたかは顔を上げ、表情は次第と明るくなっていった。 「とりあえず、これが病院の場所のメモなんやけど・・・。後で寄ってみたらどやろ?」 「あ、ありがとうございます!!」 ゆたかは大阪からメモを受け取り、裁判所を出て行った。 「じゃぁ、あたし達も帰ります。ゆたかちゃんを追いかけて、ゆいさんの旦那さんに事情を話してこなくちゃ・・・」 そう言い、かがみ達も裁判所を出た。 「それじゃ、わたし達も帰りましょうか・・・」 「うん!」 わたしと恵那も事務所に戻ろうとした時・・・。 『待った!』 「え?」 大阪が待ったを掛けたのだ。 「ちょっと、悪いねんけど・・・。もう1ついいニュースがあったの忘れてたわ・・・」 「もう1つ?」 恵那は大阪に近付いた。 「榊ちゃんから直接の伝言を受けてな。『マヤマヤーも無事峠を越えた』そうや」 「ま、マヤマヤーが!?お母さん本当!?」 恵那は身を乗り出し、大阪の襟首を掴んでいった。 「ま、間違いないで・・・。だから、帰りに榊動物病院に迎えに行こうなぁ、恵那」 「うん!!」 こうして、事件は終わり、毒に侵された関係者達は次第に回復していった。 10月2日 午前10時24分 美浜法律事務所 あの事件が解決し、半月が経った。わたし達は相変わらず暇な日常を暮らしていた。そんな時・・・。 「ちよちゃん、手紙が着てるよ〜」 恵那が郵便受けから手紙を持ってきた。 「手紙ですか?」 「うん、小早川ゆたかさんから・・・」 「小早川ゆたかって、あの・・・成美ゆいの妹の?」 「そう!あのゆたかさん。出所したこなたさんの事とか書いてあるの・・・」 『拝啓、美浜ちよ弁護士様 半月ぶりになりますね。ご無沙汰しています。 きよたかお兄ちゃんはリハビリを終えて、一週間前に無事に退院しました。 最近は、きよたかお兄ちゃんと2人で、ゆいお姉ちゃんの面会に行くのが日課です。 きよたかお兄ちゃんは、前いた会社を辞め、近くの単身赴任が少ない会社に再就職し、 ゆいお姉ちゃんが出所するのを待つそうです。 追記、喫茶店・ルミエールが再オープンしました。出所したこなたお姉ちゃんは、 またバイト三昧になっているようです。ちなみに、今はあの盗撮犯の人が店長を やっていて、こなたお姉ちゃんと楽しくお仕事しているそうです。 それでは、弁護士さんもお身体をお気をつけて・・・ 小早川ゆたか』 わたしはゆたかの手紙を読み、涙目になっていた。今回の事件の結果が関係者を救う事が出来たんだ・・・。 「これは、後で記念に取っておきましょう・・・」 わたしはそう言って、机の引き出しに手紙をしまい込んだ。 「それじゃぁ、早速出掛けよう!ちよちゃん」 「で、出掛けるって、何処にですか?」 「もちろん、ルミエールだよ!!盗撮犯さんが、割引してくれるかもしれないし・・・」 それが目的か・・・。 わたし達は、ルミエールへ向かい、再び事件の関係者達と顔合わせをしてくるのだった。 おわり |