第3話:逆転のティータイム 1日目・探偵
東漫裁判
第3話 逆転のティータイム

国技館会場・・・。「放課後のティータイム」というバンドのコンサートが開かれていた。
???「みんな有難う!!」
ボーカル兼メインギター担当の唯がマイクを手にし、叫ぶ。
唯「それでは、ラストアンコール!『ふわふわタイム』行きま〜すっ!!」
唯の挨拶が終わり、ドラムの律が出だしの合図を出し、演奏が始まった。その時だった・・・。
「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああっ!!」

8月27日 午前10時34分 美浜法律事務所

真夏の昼間、相変わらず暇な事務所をわたしは掃除していた。2ヶ月前の毒殺事件以来、お客さんは来ないが、恵那ち
ゃんだけは毎日顔を出してくる。しかし、大阪さんはあの日以来さっぱり来なくなっていた。
恵那「最近、暇だねぇ〜」
恵那はわたしの掃除を手伝いつつ、いつもそういう。
ちよ「仕方ないですよ。わたしみたいな弁護士に弁護の依頼をしたがる人ってあまり居ませんし・・・。それより、大阪さん
はどうしたんですか?最近、全然見ませんけど・・・」
恵那「・・・お母さん、最近家にもあまり帰ってないの。大事な仕事があるからって・・・」
恵那は少し寂しそうに応えた。
ちよ「そういえば、前の事件の時・・・。かおりんが言ってましたよね?過去に扱った事件を追ってるとか・・・」
そう、あれは2ヶ月前の事件の時だった。大阪さんに一番近い鑑識チームリーダーをしているかおりん巡査部長が、教え
てくれた事だった。・・・でも、結局どんな事件か知らないままだったりしますけど・・・。
恵那「まぁ、そんな事より!ちよちゃん、夜暇でしょ?」
恵那はわたしに明るい笑顔を向けて、あるチケットを見せてきた。
ちよ「ん?コンサートのチケット?」
恵那が見せてきたチケットには『放課後のティータイム』というバンドのライブコンサートチケットだった。
ちよ「そのチケットどうしたの?」
恵那「この間の事件で助けた依頼人の泉こなたさんって居たでしょ?彼女から貰ったの」
恵那はそう言い、チケットを鞄にしまった。この間の喫茶店の事件・・・。弁護の依頼の要請者自身が犯人として捕まり、
泉こなたはまだ高校生という事もあって、依頼料はあまり貰えなかったのだが、彼女はあの事件が解決して以来、依頼
料代わりにこういった物を時々送ってくれる様になった。
ちよ「ところで、このバンドはどんなメンバーなんですか?」
わたしがふと尋ねると、恵那はわたしに顔を近付けて、鋭く睨んだ。
恵那「ちよちゃん、『放課後のティータイム』も知らないの?最近じゃ、ちょっと有名になってきた駆け出しバンドメンバーな
んだよ!」
恵那はわたしに『放課後のティータイム』について説明してくれた。このメンバーは、高校入学時に廃部になりかけた軽音
楽部を立ち上げ、卒業目前で国技館ライブを結成し、メンバー全員が高校を卒業してからは、一バンドとしてデビューを
果たしたという・・・。
恵那「わたし、あのベースの澪がかっこよくて好きなの・・・」
ちよ「あはは・・・そ、そうなんですか・・・」
恵那はそう言うと、自分の世界に入って行った。まぁ、こなたの用意した折角のチケットを無駄にするのはMOTTAINAIと
いう事で、わたしは恵那と2人でそのコンサートライブを見に行くことにした・・・。

同日 午後8時19分 国技館コンサート会場

国技館のコンサート会場にはそれなりの人数のファンが押し寄せていた。まだ、駆け出しバンドという事で、あまり人数は
多くないが、期待以上の実力にわたしは圧倒されていた。
ちよ「はぁ・・・結構いいライブですねぇ・・・。恵那ちゃん!」
恵那「・・・ちよちゃん、はしゃぎ過ぎ・・・」
わたしはつい盛り上がってしまい、乗り気で来た恵那を押しのけて騒いでいたらしい・・・。
恵那「でも、来てよかったなぁ・・・。ちよちゃん、楽しんでるみたいだし・・・」
ちよ「はい!特にあの、ギター&ボーカルの唯!本当に初心者スタートだったのが嘘みたいに上手くてもう・・・!」
恵那「はいはい、興奮しない興奮しない」
恵那はそういいわたしにタオルと差し出した。
恵那「ギター&ボーカルの唯か・・・。最初は、それでも足を引っ張る場面は多かったんだけど、卒業してからグっと実力
を付けたギターリストだね。今、メンバーで一番注目されているの・・・」
恵那はパンフレットをわたしに差し出した。そこには、『唯のソロコンサート』と書かれたものだった。
恵那「今、音楽業界は唯の実力を高く評価して、唯の独立化を考えているらしいんだって・・・」
ちよ「わぁ!それ今度見に行きたいですね!」
恵那「・・・わたしは・・・澪がいないからパス・・・・」
澪ファンの恵那は唯のソロデビューにはあまり乗り気じゃないようだ。そんな中、ラストナンバーが始まった。
唯「みんなきょうはありがとう!!それじゃぁ、本日のラストナンバー!!『ふわふわタイム』行きまぁ〜す!!」
唯の一言で始まり、ドラムの律が合図を出したその時だった。
ドサッ!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
突然、会場の屋根の上から女の人が落ちてきたのだった。
ちよ「な、何ですか?今の演出?」
恵那「そんな訳ないでしょ!!いくよ、ちよちゃん!!」
恵那はわたしの手を引きステージまで引っ張ってきた。
恵那「あの!わたし達弁護士です!!今すぐ・・・」
恵那がステージの上の5人に指示を出そうとすると、律が前に出てきた。
律「弁護士が何だって?」
ちよ「す、すみません!恵那ちゃん!弁護士には現場指揮を執る権限はないんですよ!!」
恵那「で、でも・・・・」
出しゃばった恵那を止めるわたしの前に、
かおりん「警察です!今日は非番手帳はありませんが、とりあえず!すぐに幕を締めて下さい!!」
偶然、ライブを見に来たかおりんが混乱した状況を止めた。
かおりん「すぐに仲間を呼びますので、関係者を会場の外に出さない様にお願いします!!」
スタッフ「は、はい!!」

同日 午後8時25分 国技館コンサート会場・控え室

ジャンボ「なるほど・・・。つまり、演奏が始まる瞬間に死体が落ちてきた・・・・と」
かおりん「被害者は、山中さわ子。放課後のティータイムのマネージャーね」
ちよ「なるほど・・・、マネージャーが・・・」
わたしがちゃっかり捜査班の中に紛れていると、ジャンボが近付いてきた。
ジャンボ「って、またアンタ達かよ!!」
恵那「やはー」
ジャンボ「ったく、アンタ達よぅ・・・。今度、お祓いしてもらった方がいいんじゃねぇの?」
ジャンボは不安そうな目で見る。
ジャンボ「それに、アンタの所為で水原検事はブルーになってんだぜ!午後のティーを片手に執務室の外を見て黄昏て
いる事が多くなっちまって・・・。どうしてくれるんだよ!」
ちよ「知りませんよ!!」
恵那「そうだよ!!大体、ジャンボさんの捜査がいい加減だからいけないんでしょ!!」
ジャンボ「!!」
恵那のキツイ一言でジャンボは一気にいじけ出した。
ジャンボ「あぁ・・・そうだよ。どうせ、俺が悪いんだ・・・」
そんな感じで殺人事件が目の前であったとは思えない漫才を繰り広げている中、バンドメンバー達は完全に暗い表情を
していた。
律「何で・・・こんな事に・・・。さわちゃん先生が何したって言うんだよ!!」
澪「律・・・、悔やんでいても仕方ないだろ・・・。私達には犯人が捕まってくれる事を祈るだけだ・・・」
律は荒れ、澪はそれを抑えつつ苦しそうにし、梓は唯と憂に介抱されながら泣きやまず、紬は俯いて何も喋ろうとしな
い・・・。そんな重苦しい空気に包まれていた。
ジャンボ「ま、まぁまぁ・・・。とりあえず、みなさん!事情聴取をさせて頂かせてもらうんで、付き合ってもらうぜ・・・」
律「お、おい!刑事さん!あんた、私らの中に犯人がいるって言っているのかよ!?」
ジャンボ「あ、いや・・・それはその・・・」
ジャンボは律に言い寄られ、対応に困っていた。そこに、かおりんが2人の間に割って入った。
かおりん「田井中律さん、お気持ちは解りますが、事件が起きた状況からして、スタッフ関係者しかありえないという状況
なの・・・。悪いけど、協力して頂きます」
律「うぅ・・・」
かおりんは律を上手く説得し、律を別室に案内しようとした時だった。
???「竹田刑事!!倉庫の中から怪しい証拠を発見しました!!」
そこに入ってきたのは、金髪ボサボサ髪のだらしなさそうな刑事だった。
ジャンボ「おぉ!でかしたヤンダ!!どんな証拠だ?」
ヤンダ「コレッス!」
ヤンダと呼ばれた刑事は、大きいサイズのネックが壊れたギターを取り出した。
ジャンボ「ギターか?大きいな・・・、男モノか?」
ヤンダが取り出したギターを見た瞬間、バンドメンバーやスタッフ達の目の色が変わった。
澪「お、おい・・・そのギターって・・・」
唯「ギー太ぁ〜!!」
ちよ「え?」
唯はヤンダの持ってきたギターに抱きつこうとした時、ジャンボは唯の手首を掴み上げた。
ジャンボ「おい、それは証拠だ。触るな・・・って、もしかしてこのギター・・・、お前のか?」
唯「はい!あたしの大切な相棒です!!」
ジャンボ「そうか・・・」
ジャンボはそう言うと、静かに唯に手錠を掛けた。
律「なっ!!」
唯「うえ!?」
ジャンボ「平沢唯!!山中さわ子殺害容疑で、お前を逮捕する!!」
唯「ええええええええええええええええ!?」
ジャンボ「さぁ、署まで連行しろ!!」
平巡査A「はっ!」
唯「たぁ〜すぅ〜けぇ〜てぇ〜!!」
こうして、平沢唯はわたし達の目の前で緊急逮捕された。

8月28日 午前9時32分 留置所・面会室

翌朝、わたしと恵那ちゃんは逮捕されたばかりの唯の面会にやってきた。
唯「あ・・・、君達は昨日の・・・」
唯は明らかに元気が無さそうだった。見るからに疲れてきっているのが解る。
ちよ「弁護士の美浜ちよです。今日はお話を伺いにやってきました」
唯「やっぱり!昨日の弁護士ちゃんだ」
弁護士ちゃんってなぁ・・・。
ちよ「あの・・・貴女の弁護、わたしにやらせてくれませんか?」
唯「え!?引き受けてくれるの!?あたし、殺しちゃったかもしれないんだよ?」
ちよ「もちろんです!!それに、わたしは唯さんの無実を信じていますから!!」
唯「う・・・うう・・・」
唯はちよの一言を聞き、突然涙を流し出した。
唯「・・・さっき、律っちゃんが面会に来てくれたんだけど・・・。凄い剣幕で、「人殺し!」なんて言われたの・・・」
恵那「ひ、ひどぉ〜い!!まだ犯人かどうか解らないのに!!」
恵那は唯の話を聞いてキレかけた。
唯「だから、あたしを信じてくれる人なんていないんじゃないかって・・・」
バン!
わたしはその言葉を聞いた途端、テーブルを叩いた。
ちよ「そんな事はありません!!弁護士は依頼人の無実を信じる者・・・。わたしは最後まで唯さんを信じ続けると誓いま
す!!」
唯「弁護士さん・・・・」
唯はわたしの一言に感動し、涙を抑えきれない状態に陥っていた。
ちよ「唯さん・・・。昨日、事件が起こる前について話してくれますか?」
唯「はい!」
唯は元気を取り戻し、事件当日の事を話しだした。
唯「昨日は、昼の4時に国技館に入りました。そして、コンサート開始まではずっと澪ちゃんとあずにゃんと一緒に練習や
ってて、第1部の演奏が終わった後、さわちゃん先生は生きていました。第2部、第3部が始まる前と終わった後にも生き
ているのは確認していますし、その間の休憩中はバンドメンバーはみんな一緒にいたので、全員にアリバイがあります」
ちよ「なるほど・・・。この時には生きていたんですね・・・」
唯「そして、ラストナンバーの演奏前の休憩の時、わたしは1人でギー太の手入れをしていました」
ちよ「ギー太?って、あの折れたギターですか?」
わたしが「折れたギター」と言うと、唯は俯いて暗い顔になった。
ちよ「ゆ、唯さん?」
唯「ギー太はあたしにとって最高の相棒なの・・・」
ちよ「相棒?そんなに思い入れのあるギターだったんですか・・・」
わたしは確かに不思議だった。そんなに力がありそうに見えない唯さんがあんなに大きなギターを大切にしていた事
が・・・。
恵那「いつも『ふわふわタイム』を演奏する時に必ず持ってくるギターなんだよ」
恵那は自慢げに胸を張って紹介した。
唯「うん・・・ギー太はね。あたしが初めて手にしたギターなんだ・・・。あの時は手持ちのお金じゃ足りなくて・・・、そしたら
ムギちゃんが代わりに交渉してくれて・・・・」
ちよ「ムギちゃん?」
わたしは初めて聞く名前にピンと来なかった。
恵那「ほら、キーボードの子の事だよ、ちよちゃん」
ちよ「キーボード?」
わたしは開演前に恵那から貰ったパンフレットを見ると、太い眉毛が特徴的な女の人が写っていた。
ちよ「あぁ・・・この『琴吹紬』って人ですね?」
唯「うん!そう!!ムギちゃんの持ってくるお菓子、いつもすっごく美味しいんだぁ〜!!」
唯は話が脱線し始め、紬の自慢話が始まってしまった。紬は琴吹財閥の御令嬢だという事から始まり、楽器店もいくつか
牛耳る大財閥だという事まで・・・。
唯「という訳でね・・・ムギちゃんは・・・」
ちよ「あ、紬さんの事はよく解りましたから・・・。別の話に行きましょう」
わたしはやや強引に話をすり替える事にした。そんな時、恵那が気になっていた事を尋ね出したのだ。
恵那「あの、唯さん。気になっていたんですけど、今度ソロデビューするって話があるとか・・・」
その時だった、唯が初めて怒りの表情を見せたのは・・・。
唯「あたし、ソロはやらないよ。もし、あたしが無罪になって出所しても、ずっといつものメンバーでバンドをやる・・・」
ちよ「え?そ、そうなんですか!?」
唯「実は、その件で数日前にちょっと揉め事があってね。さわちゃん先生や音楽業界のお偉いさん達はあたしをソロで進
めてくるんだけど、それに気に入らなかった律っちゃんがさわちゃん先生に殴り飛ばした事があったくらいなんだ・・・」
ちよ「そんな事が・・・」
この件を話している時の唯は、いつもでは感じ取れないくらいに感情的に見えた。
恵那「ちょっと待って!律さん、そんな事をしたって事は・・・律さんに動機があるって事になるよね?」
恵那のふとした発言を聞いたわたしと唯の目の色は変わった。
唯「ち、違う!律っちゃんは人殺しなんてしないよ!!」
ちよ「・・・わ、解りました解りました!!とりあえず、律さんからは直に話しを聞いておいたほうがいいみたいですね・・・」
わたしは唯から得た情報を手にし、留置所をあとにした。

同日 午前10時8分 国技館スタッフ通用口前

唯から依頼状を受け取ったわたしは、早速事件現場に行くことにした。すると、通用口前でかたくなに見張りの警官とや
り合っている太った見るからに不審な男がいた。
???「だからぁ〜!ぼくちんは証人として呼ばれた客の代表なのに!何で入れてもらえないんだな?」
警官「だ・か・ら!!この先は関係者以外は立ち入り禁止です!!」
ちよ「あの・・・」
警官「ん?君達は?」
わたしは、太った男を無視し、警官に話しかけ、依頼状を突きつけた。
警官「平沢唯の弁護士ですね?存じております。どうぞ、お通り下さい」
恵那「あれ?今回は普通に入れてもらえたね」
警官「はっ!竹田刑事殿から、『小学生くらいの子供が弁護依頼状を持ってきたら通せ』と伝言を承っておりますので」
ジャンボはどうやらわたし達の事を少しは認めてくれているようだ。それにしても・・・『小学生くらいの子供』は失礼な気は
しますが・・・。
ちよ「ま、まぁ・・・。それでは、お言葉に甘えて・・・」
その時、
???「待つんだな!!」
太った男がわたし達の前を塞いだ。
???「弁護士だか何だか知らないけど、ぼくちんですら入らせてもらえないのに、ずるいんだな!!」
恵那「な、なんですか!!わたし達は正式な依頼を受けたんです!邪魔しないで!!」
???「ぬっ!ぬぅ・・・。ふむぅ・・・ほぉ・・・・」
太った男は怪しい目で恵那を見つめた。
恵那「な、な、何ですか!?そのいやらしい目は!?」
???「よく見るとアナタ・・・。いいねぇ・・・実にいいよぉ〜萌え♪ぼくちんの好みの守備範囲に入るかな?」
太った男は明らかに不審な目で恵那を見つめ、ヨダレを垂らしている。
恵那「ひっ、ひぃっ!!き、気持ち悪い・・・!!」
ちよ「あ、あの・・・。貴方は・・・?確か、裁判の証人とか・・・言ってましたけど・・・?」
わたしの声に気付いた太った男はとりあえず一応普通の目でわたしに視線を向けた。
???「あぁ、ぼく?ぼくは、『放課後のティータイム』のファンだよ。特に、澪ちゃんと梓ちゃんのね!!」
ちよ「は、はぁ・・・・」
太「あぁ、自己紹介が遅れたね。ぼくは、脂望 太。本業は琴吹楽器店の副店長をやっているよ」
太はわたしに、自己紹介をすると名刺交換をしてきた。
恵那「琴吹っていうと、琴吹紬さんの?」
太「あぁ、事件の日に紬お嬢様に頼まれて楽器を届けに行った後、コンサートを観戦していたんだよ」
太は恵那に薄気味悪く微笑むと、恵那は顔色が悪くなった。
ちよ「なるほど・・・、確かに裁判の証人には的確かもしれませんね・・・」
恵那「ち、ちよちゃん・・・。な、中に入ろうよ・・・」
恵那はわたしの背中を押し、やや強引に中に入ろうとした。というか、目が「気持ち悪い人と居たくない」と訴えている様
にも見えた。
ちよ「そ、そうですね。事件現場や話を聞きたい関係者もいますし。行きましょうか・・・」
わたしは、背中を押されつつ、中へ入っていった。

同日 午前10時27分 国技館・廊下

ドン!
恵那「きゃぁ!」
廊下に入った途端、恵那は近くを通りすぎた鑑識官にぶつかった。
???「いたたぁ・・・。あ、だ、大丈夫?」
その謎の鑑識官は恵那に手を差し伸べ、恵那はその手を取り立ち上がった。
恵那「す、すみません・・・。・・・・え?」
その時、鑑識官と目が合った恵那は目を丸くして、無言になった。
???「って、ちょっと?も、もしかして・・・あんた、恵那?」
恵那「え?ええ?お、お、おね・・・・・・いや、綾瀬風香!?」
恵那は綾瀬風香という鑑識官を見た時、何かを言い掛けつつ、名前を言いなおした。
ちよ「恵那ちゃん、この人知り合いですか?」
恵那「え?えっと・・・」
わたしが尋ねた途端、恵那は何かを隠した様に動揺し出し、
恵那「ち、ち、違う・・・よ」
頑なに否定した。でも、何かがおかしい感じはあったが、無理に聞き出せそうに思えなかったわたしは、とりあえずその場
はお茶を濁した。
ちよ「ま、まぁ・・・いいです。とりあえず、現場の捜査しないと・・・」
恵那「そうそう!現場の捜査しなくちゃ!!」
とりあえず、その場は互いに誤魔化したが、わたしは何かが引っかかっていた。恵那が綾瀬風香に言い掛けようとした言
葉・・・。「おね」・・・。もしかして、綾瀬風香は恵那の「お姉ちゃん」なのだろうか?今まで恵那は自分の家族を春日歩1人
の様に言ってきては居たが、彼女との歳の差を考えても、春日歩が実母には思えなかった。やはり、春日歩は義母か、
養母なのだろう・・・。とりあえず、恵那からは無理には聞き出せそうにないと判断し、いつか綾瀬風香と2人きりになるチ
ャンスが来た時に訊いてみる事にしてみよう・・・。

同日 午前10時34分 国技館・ステージ

ステージの上では、ジャンボが現場指揮をとっており、かおりんは榊が行っている最中の死体解剖に立ち会って不在だっ
た。
ジャンボ「お?アンタ!やっぱり、アンタが平沢唯を弁護するんだな」
ちよ「はい!そうです!!」
ジャンボ「お、そうだ。裁判の日程が決まったぜ。明日10時、検事は水原検事だ」
ちよ「み、水原暦・・・」
また、よみ検事と対戦する事が決定してしまった事を報告され、わたしの心に緊張が走った。
水原暦、地方検察庁きっての若手天才検事・・・。15歳という若さで検事になり、3年間負け知らずの実力派検事・・・。そ
ういえば、3年前に春日歩との対決以来、彼女との因縁が絶えないとか聞いていたっけ・・・。
恵那「ジャンボさん!とりあえず、現場の状況を教えてくれますか?」
ジャンボ「あぁ、被害者は山中さわ子。『放課後のティータイム』のマネージャーだ。解剖記録はまだ出来ていないが、死
因は恐らく撲殺と思われているぜ」
ちよ「撲殺?転落死じゃなかったんですか?」
わたしは不審に思った。推測とはいえ、現場の上から落ちてきた被害者が転落死ではなく、撲殺と言われていたか
ら・・・。
ジャンボ「とりあえず、これが現場写真だ。まぁ、アンタ達もその場に居たらしいから、アレかもしれないけどな・・・」
わたしはジャンボの差し出した現場写真を受け取った。
恵那「うぅ・・・これはムゴイね・・・」
恵那は気味悪そうに口元を抑えた。気持ちは解る、昨日見た死体そのものが撮影された写真なのだから。
ジャンボ「これ、不自然な感じあるだろ?」
ちよ「なるほど・・・、もし転落死なら出血量が不自然ですね」
そう。現場写真や昨日実際にステージで見た光景も気になっていた点だった。ステージ自体にあまりにも血痕が少な過
ぎるのだ。
ジャンボ「あと、気になるモノも発見しているんだが、この真上を見てくれ」
ジャンボが上を指すと、ステージの上にかなり足場が悪いが天井の工事に使われるであろう細い通路が用意されてい
た。
ちよ「あ、もしかして被害者はあそこから?」
ジャンボ「ほぼ間違いはねぇな。あそこより上には行けないし。落とすには絶好のポイントだろうぜ」
恵那「ちよちゃん、折角だし・・・。ちょっと見てみようよ」
ちよ「そ、そうですね」
わたしは恵那に手を引かれ、天井裏に行ってみる事にした。

同日 午前11時49分 国技館ステージ・天井裏

天井裏は思ったより狭く、高さ150cm程のフェンスで両脇が支えられている金網式の足場だった。
恵那「うわぁ・・・結構高いね・・・」
ヤンダ「まぁ、高さは10mくらいだな・・・」
恵那「ひゃぁ!」
ヤンダが間後ろから声を掛けてきた。
ヤンダ「よっ、えっと・・・美浜弁護士に、春日恵那だったかな?」
恵那「お、おと・・・いや、安田刑事さん!?どうして?」
ちよ「え?」
まただ・・・、綾瀬風香といい、安田刑事といい・・・。恵那は2人の事で何かを隠している様だった。
ヤンダ「ヤンダでいいぜ。俺は天井裏の指揮をとっている・・・。って言っても、ジャンボさんの体系じゃ、こんな狭い所は入
れないしな・・・・」
恵那「あはは・・・確かに、ジャンボさん210cmあるからね・・・」
ちよ「恵那ちゃん、ヤンダ刑事と知り合いなんですか?」
恵那「え?」
恵那はわたしがヤンダとの関係を尋ねると、目を丸くし、黙り込んでしまった。・・・どういう事なのだろうか・・・?すると、そ
こにヤンダが割り込んできた。
ヤンダ「あぁ、恵那は昔俺が担当した事件で知り合ったんだよ。・・・アンタ、確か春日歩の知り合いなんだろ?」
ちよ「え、えぇ・・・まぁ・・・」
ヤンダ「春日歩が昔担当した事件で、紹介された事があるんだ・・・。それだけだよ・・・」
ちよ「春日歩が・・・・」
わたしは引っかかっていた。春日歩がかつて扱った事件の担当刑事・安田。しかし、春日歩は確か、3年前の事件以来
法廷に立っていないハズ・・・。これってどういう事なんだろう・・・。
ヤンダ「おっと、そんな話している場合じゃねぇだろ。現場の調査だったな・・・」
ヤンダは話を切り替え、事件の話に移り、わたし達を現場の真上に案内した。
ちよ「ここが現場の真上ですか・・・」
恵那「ほら、ちよちゃんあの白いテープ。間違いなくここから落とされたんだよ」
恵那はジャンボの間横にある白いテープで囲まれた死体の跡を指した。
ちよ「なるほど・・・。そう考えて間違いないようですね・・・・」
ヤンダ「ついでにココを見てみな」
ヤンダは手すりを指差すと、そこには何か細い傷跡が残っていた。
ちよ「こ、これは・・・」
ヤンダ「まだ、捜索中なんだが、どうやらワイヤーか何かで縛った跡みたいだな・・・」
恵那「つまり、そのワイヤーらしきモノをタイミングよく切れる様にしておけば、ステージの上の人物でも死体を演奏中に
落とす事は可能って事だよね・・・」
ヤンダ「ま、そういうこった。そして、関係者でアリバイが唯一アリバイが存在しなく、凶器のギターの所有者である平沢唯
が最も怪しい・・・。今はそういう結論になっているのさ・・・」
結局、ヤンダの説明の通りに行われたら犯行が可能なのは唯だけになってしまうのだった・・・。
ちよ「あ、あの・・・一応、関係者の人達の話を聞きたいんですけど・・・」
ヤンダ「あぁ、バンドメンバーは全員控え室にいるぜ。まだ帰してないから、用があるなら行ってみなよ」
ちよ「ありがとうございます」
そして、わたしは、ヤンダに案内され、控え室に向かった。

同日 午後1時23分 国技館・控え室

わたし達が、バンドメンバーが待機させられている控え室に入ると、みんな既に疲れ切っている様子だった。無理もない
事だ、バンドメンバーの1人が殺人容疑で逮捕され、その為ろくに寝てもいられないのだから・・・。
ちよ「お疲れの処すみません、みなさん」
澪「ん?あぁ・・・昨日の弁護士名乗ってた子か・・・。唯から聞いたよ、君が唯を弁護するんだって?」
荒れるメンバーで一番落ち着いていた澪が話掛けてきた。態度は堂々としていたが、内心何処か辛そうにしているのが
見ていて痛々しかったのだが・・・。
ちよ「はい!それで、いくつか訊いておきたい事がありまして・・・」
紬「あの・・・唯ちゃんは誰も殺していませんよね・・・?」
紬は心配そうな顔をしてわたしに訊いて来た。
ちよ「まだ真相が見えていないので、何とも言えませんけど、わたし個人としては彼女を信じたいと思います!」
紬「弁護士さん・・・・」
やはり、みんな唯の無実を信じていたいのだろう。そんな様子だった・・・。ただ1人を除いて・・・。
律「お前ら人良すぎなんだよ!状況から見ても唯にしか出来なかったんだ・・・。もうあいつしか・・・」
律だけは何故か、唯の事を批判している態度を見せていた。わたしは留置所を出た時から引っかかっていた事だった。
律が何故、そこまで唯の事を批判するのかが・・・。
ちよ「・・・この中で1人だけお話を伺っておきたいので、いいですか?」
澪「1人だけ?折角だから、みんなの話を訊いていったらどうなんだ?」
わたしが1人だけを指名すると言うと、澪は不審がってわたしに尋ねてきた。
ちよ「そうしたいのは山々なんですけど、わたし警察官ではありませんし、無理に訊き出す事はこの場じゃ出来ませんか
ら・・・。それに皆さん、大変お疲れの様ですし・・・」
澪「気を使わせて悪いな・・・」
澪は気遣われている事に気付くと、恐縮した態度で頭を下げた。
ちよ「田井中律さん・・・。貴女に訊きたい事があるので、お付き合い願えますか?」
澪「り、律!?」
メンバーの視線が律に集中した。
律「おいおい、弁護士さん・・・。まさか、唯を無罪にする為にあたしを告発しようなんて考えてないよな?」
律はやや焦った表情をしながらわたしを睨み出した。
ちよ「いえ、仮に貴女を告発するつもりだったのならば、現状では不可能ですから・・・。『田井中律が山中さわ子を殺害し
た』という決定的な証拠どころか、状況証拠すらまだ発見すらされてませんから・・・ね。・・・ただ、個人的に何か引っかか
る点があるので、質問させて頂きたいのです。勿論、」
律「そ、それならいいんだけどさ・・・」
律はやや目を泳がせ、わたしから視線を逸らせた。
ちよ「『平沢唯のソロデビュー』についてです。これについて貴女の意見を伺いたいのです・・・」
律「あぁ、その話か・・・。音楽業界のお偉いさん達が唯を偉く気に入っちまってな。あいつの絶対音感に興味を持ったらし
いんだが、それでその話がお偉いさんからさわちゃんを通して唯の処に話が行っちまっただけだ」
律は大雑把に唯のソロデビューについて語りだした。
ちよ「それで・・・。そのソロデビューについて貴女はどう思っているんですか?」
律「別に〜唯がいなくてもバンド出来るし、梓のギターと澪のボーカルでいくらでもカバーは出来るしな。あんな奴最初か
ら要らない存在だったんだ・・・」
紬「唯ちゃんの代わりなんていません!!」
唯を批判する律に対して、紬が話しに割り込んだ。
澪「そうだな・・・律。正直言って、私も弁護士さんと同じ意見だな・・・。ずっと引っかかっていたんだ、お前がそこまで唯を
批判している事がな・・・。やっぱり唯がソロデビューする話に関係しているのか?」
澪まで割り込み、わたしがしようとしていた質問を先に言われてしまった。
律「い、いいだろ別に!!あたしにとってどうでもいい事なんだよ!!」
澪にまで質問責めされた律は怒り出し、テーブルを叩き出した。
ちよ「解りました・・・もう充分です・・・。明日、法廷で会いましょう・・・田井中律さん・・・」
わたしはそう言うと、控え室を出て行った。

同日 午後3時42分 国技館・廊下

結局、律からロクな事が訊き出せないまま部屋を出た。
恵那「何なの?田井中律のあの態度!仮にもメンバーが逮捕されたんだよ・・・」
ちよ「きっと、田井中律には人に言えない様な何かを隠している可能性がある・・・。それに彼女の立場上、押さえておか
なくちゃいけない感情もあるのかもしれません・・・」
恵那「あぁ〜!!すっきりしないなぁ!!わたしが年上だったら、今頃田井中律に殴りかかっていたってのに!!」
恵那は頭を掻きむしりながら苛々していた。気持ちはよく解るが、その為に法廷があるのだ。恐らく、彼女は重要な証人
として明日の裁判で出てくる筈・・・。その時に訊き出せばいい・・・。わたしはそう核心していた。
風香「あ、いたいた。ちよちゃんに恵那!!」
風香がわたし達に話しかけてきた。
ちよ「風香さん!?どうかしたんですか?」
風香「凶器のギターの検査結果が出たんで報告に来たのよ!」
風香はそう言うと、わたしに報告書のコピーを差し出した。
風香「あのギターの角に血痕が付着していてね。その検査に出していたんだけど、血痕は山中さわ子のもので間違いな
いそうだよ」
やはり、山中さわ子の血痕が・・・。この報告でわたし達はより不利に立たされてしまった。
ちよ「・・・解りました。わざわざ有難う御座います・・・」
風香「いいって、かおりんが検死に立ち会っていて動けないんだから、その代理くらいは果たさないと・・・ね。それと・・・」
風香は真っ直ぐ恵那を見つめた。
風香「恵那・・・。春日歩が何を考えているのか知らないけど・・・。3年前の事件のホトボリが冷めたらいい加減、帰ってき
なよ・・・。春日歩の事は伏せてはいるけど・・・、お父さん本気で心配していたんだから・・・」
風香はそう吐き捨てると、ヤンダの指揮する現場へ向かった。

同日 午後4時43分 美浜法律事務所

とりあえず、事件現場を見てきた。わたし達は事務所に帰って来たのだが、風香に一言言われてから、恵那は黙り込ん
でしまった。
恵那「ねぇ・・・ちよちゃん。もう解っているんでしょ?わたしの事・・・」
ちよ「・・・やっぱり、恵那ちゃんは・・・」
恵那「そう・・・。春日歩はわたしの母親じゃないの。3年前の事件に巻き込まれた時に引き取ってくれた恩人というだけ
で・・・」
ちよ「やっぱり・・・そうだったんだ・・・」
恵那「わたしの本当の名前は『綾瀬恵那』・・・。綾瀬風香の実の妹なんだ・・・」
ちよ「恵那ちゃん・・・」
恵那は自分の正体は明したものの、それ以上を語る事は全くなかった・・・。こんな時、春日歩だったら・・・今は聞き出す
べきじゃないと言うのだろう・・・。わたしもこれ以上、この話題を振ることはなかった。
そして、明日の裁判・・・、わたしはまだこの事件の全てを理解していないという感覚はあった。一体、明日の裁判でどん
な事が起こるのだろうか・・・・。

つづく